第一部
第零章 プロローグ
消失-ヴァニッシュ-
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になっていた。
「…件数が少なくなったとはいえ、記憶処理自体がなくなったわけじゃない。ビーストに襲われて発狂した人もいるからな。とはいえ今のMPは主な仕事がない。新しい目的がない限りはほぼボランティアに近い状態だな。心配しなくてもちゃんと給料はもらってる」
「そっか…早く見つかったらいいけど…お、あそこだあそこ!」
憐が指をさした方角には、目的の花屋が見えた。シュウはそこで墓への供えに向いている花束を買うと、憐に次の時間までの別れを告げてバイクに乗って墓地へと向かった。
墓地へ到着した彼は、まっすぐ目的の墓の前へたどり着き、墓の周りの落ち葉を払い、墓石を雑巾で拭きとってきれいにする。その墓の花瓶に水を注いで、花屋で買ってきた花を入れた。身をかがめ、彼は合掌する。墓には『花澤家墓所』と文字が刻みこまれていた。
「…また、日を開けて済まない」
墓の主に言ったのだろうか。シュウは謝罪の言葉をかける。だが、彼はそれ以上の言葉を言おうとしなかった。何かを言いたそうにしていたが、言葉にしなかった。
(…いや、言葉にするだけ無駄なんだ。彼女はもう死んでいる。もう終わっているんだ)
今の彼の脳裏には、きっと彼の過去が流れたのだろう。表情を歪ませ、彼の右手は自然と握り拳を作っていた。その時、一羽のカラスが彼の頭上を、鳴きながら飛んでいた。
シュウはその後、バイクを走らせ黒部ダムへ戻っていく。彼のバイクはTLTで支給されたものだ。『NR(ナイトレイダー)』のエンブレムが証拠だ。話によるとクロムチェスターをはじめとするTLTが使用する兵器、これは組織内での機密だが『来訪者』と呼ばれる異星の知的生命体から与えられたオーバーテクノロジーによる産物でもあり、このバイクも例外ではない。排気ガスを出さず、長く走り続けることを考慮してエネルギー不足に困らないつくりとなっていた。太陽の光を使っているのかと思っていたが、違うらしい。結局どんなつくりになっているのかシュウはわからないままだが、こうして走れるならなんだっていい。
もう夕日は沈み、夜道を街灯が眩しく照らし、その光の周りを小さな蛾が飛んでいる。
何かが出てきそうなほど、街灯に照らされている場所以外は暗闇に包まれた、山岳地の道路。基地のある黒部ダムは結構な山奥に設置されているので、徒歩は当然だが車でも少々キツイ場所だ。シュウはバイクで走るときの、自分に降りかかる風を心地よく感じているため、あまり苦に思わなかったが。
明日からまたナイトレイダーとしての戦いが続く。ある意味戦場で戦うことは地獄に追いやられたように苦しいかもしれない。だがそれでもかまわなかった。シュウは戦うことに疑問さえも抱こうとしなかった。寧ろ、つかの間の平穏を味わうことも本当は自分に許されないものであると
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