第一部
第零章 プロローグ
消失-ヴァニッシュ-
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…彼の『黒く染まった過去』は、私の責任です。私は生みの親同前の身でありながら、あの子に何もしてやれなかった。いえ…何もしなかったと言う方が正しいでしょう。私は、憐の体を治すことを優先するあまり、彼を放置していたのですから」
生みの親を自称するこの海本という人物は、青年とはある特異な関係にあるようだ。
「海本博士…」
悔いるように沈んだ顔を浮かべる海本に、和倉は複雑そうな表情を露わにする。
「すみません。言ったところで、私の罪が消えるわけではないというのに…」
「いや、お気になさらないでください」
「彼は今、どこに?」
顔を上げた海本は、青年がどこへ行ったのかを訪ねと、その問いに対して凪が立ち上がって答えた。
「黒崎隊員ならたった今、外出しました。恐らく、『霊園』に」
「墓地…」
『墓地』という単語のせいか、より聞こえのいい会話ではなくなった。あの青年が墓地へ向かった。誰か忘れたくない大事な人がいるということなのだろう。
午後4時。青年…『黒崎修』は私服に着替えて黒部ダムから出ると、愛用のバイクを走らせ、ある場所へと向かっていた。
その先は、黒部ダムから数キロ離れた遊園地。夕方に近づきつつあった時間帯だったためか、一緒に家へ帰る親子、または友人や恋人と一緒にここへ遊びに来た人々の姿を多く見かける。
「継夢、帰るぞ〜!」「わかってるよ!」
「いやいや!まだ乗る〜!!」「ほら、我がまま言わないの!」
まだ遊び足りなくて駄々をこねる子供たちなど、この遊園地では日常茶飯事。
だが青年は、ここへやってきた目的意識が強かったせいか強い興味を示さなかった。遊園地を去る人々とすれ違いながら、彼は主に入場券窓口として使われている入園口の関係者入口の扉を開く。
「お、シュウ!来たのか!」
窓口から離れた机に座っていた、彼と同年代に見受けられる青年が、シュウの来訪に笑みを見せた。
「…ああ。尾白か」
この青年、尾白はこの遊園地でアルバイトをしている高校生である。もうじき卒業して大学に通う身だ。
「テレビで見たぜ、この前のお前らの活躍!仕事がはかどってるみたいじゃん」
「…まあな」
尾白の今の反応が示す通り、スペースビーストの存在を知らせぬために世間には存在を秘匿されていたTLTおよびナイトレイダーの存在は、ある時期より公表された。人類の恐怖心を食い物にするビーストの生態を考えると、自ら滅亡の危機を迎え入れようともとれるのだが、もうビーストの存在が知られようとも、人類はその脅威を乗り越えて見せるという決意がそうさせたのである。
シュウは労いの言葉をかけられながらも、調子に乗るようなそぶりも見せなかった。
「尾白、憐はどこにいる?」
「憐?ああ、あいつなら花の手入れをしているところだけど」
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