プロローグ 〜洋館にて〜
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でだ、三世院 國博」
西の方の窓から注ぐ日光を浴びはっきりと姿を現したのは、見て呉れ十二歳の、先ほどの女と同じように黒いスーツに身を包んだ男である。活発さを表す栗色の短い髪とは違い、表情は人生に疲れた四十代のように沈んでいる。どうも相容れないその男の特徴たちは、状況が状況でなければギャグにも見えかねない。
「同行を願おうか」
言うと男はポケットから煙草を取り出した。日本ではあまり見ない銘柄である。それを一本加え、胸ポケットに入っていたライダーでそっと火をつけた。落ち着きのあるその動作は、先ほどの女とは大違いである。
一人冷静になる男とは逆に、全てを失ったような老人の荒い息遣いだけがホールに響く。
だが、その息遣いが次第に笑いに変わっていくと、男は眉を少しだけ上げ不審そうな表情をした。
「ははははっ、ははははははははは!」
そして一瞬にして目を丸くする。気づいたのだ。老人が最後の手段に出ようとしていることに。男は、もう老人はその気力すら残っていないと思ったのだが、その予想は外れていたようだった。
男は瞬時に駆けだす。勢いで咥えていた煙草を床に落としてしまったが、それさえも踏みつけて進まんばかりの気迫だった。しかし、その時点ではもう手遅れだった。老人がこちらを振り向き、老いぼれてしわくちゃになった手から投げたのは手りゅう弾だった。爆撃よりも、飛び散る破片に殺傷能力を持つ小型の武器。なぜ彼がそんなものを持っていたのか、それは男には予想がつかなかったが、駆けだした後でもとっさに防衛本能が働く。自身の体を守るように胸の前で手をクロスさせる。それだけは不十分なのはわかっていたが、それしか男には方法はなかった。
「先輩っ!!」
――と、横合いからよく響く叫び声。男をかばうように、後輩の女がその前に立ちふさがった。
ドォン!とホールを揺らす大きな爆発。
砕け散った破片が四方八方に散る。
爆煙が時間とともに過ぎ去り、男を守るようにたたずむ長方形の鉄盾が姿を現す。やがてそれは、幼稚園児が粘土遊びをするように不規則に形を変えていく。最終的にそれは人の形に止まり――赤髪の少女、≪クリムゾン≫はほっとしたように息を吐いた。
その後ろで、上司である男――≪パピー・フェイス≫は困ったように頭をがしがしと掻いていた。
「ったく…、ふざけんなよ」
クリムゾンの後ろからそっと前方を覗き見ると、焼け焦げた地面を挟んで向こう側にうずくまる老人の姿があった。
「死なれちゃ困るってのによ」
「うわっ。手りゅう弾って結構威力があるんですね…」
的外れな感想を述べるクリムゾンを横目で睨み、パピー・フェイスは老人に近づく。
もう息はしてない。
こんな至近距離で食らっておいて、生きてる方がおかしいのだが。
「こいつぁ任務失敗だな。おい、携帯持ってねえか?」
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