……やっと、
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たら何だって言うんすか!ヘタクソな演奏を聴かされてわざわざ文句でも言いに来たんすか!!」
「……」
自分は彼に何かしてしまっただろうか?
何をどうすればこうも明後日な誤解をして感情を剥き出しにこちらを詰ろうとするのかと、また他人事のように考えてしまうのが悪い癖だ。
「別に悪いとは言ってねーだろうが。…ったく、これだからガキは嫌なんだよ」
「ガキって言うなっ!それにこれでも中三だ!!」
……?
紫紺の思考が止まった。
今……なんて言った?
「中坊だろーが高坊だろーがガキはガキだ。そー直ぐに熱くなる所がガキだって言うんだよ」
どうやら今まで後で控えていた左近が割って入り、低レベルな気風を喧嘩上等と言わんばかりの形相で買ってしまったようだが、今の彼にはそれを瞬時に止める余裕はなかった。
………………中三って言ったよな?
年下にも抜かされていることを間接的には知っていたが、こうも男前の同性が自分よりも高いと分かるとやはり押し寄せてくる感情も半端ではない。
「ガキをガキって言って何が悪……」
「いい加減にしろっ!!」
躾のなっていない飼い犬の如くキャンキャン騒ぐ二人に叫ぶ声と誰かを殴る音が梅林の裏で大きく響き、その上を飛んでいた鳥たちが甲高く鳴いては慌てた様子で逃げていった。
同時刻、東雲家の食卓には出張で家を空けている父親に代わりに自宅に戻ってきた者がいた。
偶に帰って来るとは言えその数は年々少なくなり、今ではこうして不在な時にしかその姿を見せることはなく、我が家の割にはどこにも見覚えがない所為かお膳を目の前にしてもその視線は自然と宙を彷徨っていた。
「………………紫紺が家を出た?」
「そうなの。別に家出なくてもいいと思わない?」
「……………………出掛けてくる」
「ちょっとっ。どこ行くの、お兄ちゃん?」
「連れ戻してくる」
「止しなさい、卯月」
席を立とうと腰を浮かす彼に口調は優しいが温度のない声に名を呼ばれ、出来の悪いロボットの如くゆっくりとした動作で振り向く。
「………………母さん」
そこには人数分のお椀をお盆に乗せたまま立つあの日泣いて反対していた人がいた。
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