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追憶は緋の薫り
……やっと、
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いでん)のちょうど裏にあるここは墓所だ。

 本質を知らない者にとっては毎年美しい花を咲かせる梅の隠れた穴場にしか見えないだろう。

 ……ここには歴代の華衣(はなごろも)が眠っている。

 その最期を、その苦しみを今も尚覚えている左近(さこん)だからこその行動だと解っている。


「今はまだその時ではない……勘違いするな、バカ」


 だからこそ、自分が元気な姿を一秒よりも早く彼に見せたかった。

 その月を宿した銀の瞳に憂いが満ちる前に。


「……?」


 背を向け、華宵殿(はなよいでん)に一歩足を進めるのとそれが耳を掠めたのはほぼ同時だった。


「どうした」


「……判らない……でも、何か音がする?」


「音?」


 痛さを乗り越えた彼が両耳の後ろに掌を宛がい、目を瞑ったのに時間は掛からなかった。


「本当だ……何かの笛か?」


 訝しがる青年を後に、それが聞こえてくるであろう道へとよろよろと歩みを進める。


「おいっ、紫紺(しこん)


 左近(さこん)が遅れて後から着いてくるのが気配で知れた。

 荒れた風を切って歩くとそれに乗って聞こえてくる音も広がり、本質を正確に覚えていなければその源にたどり着くことは困難だが、彼にそれは通じない。

 華衣(はなごろも)には五感を使った特殊能力があり、今の紫紺(しこん)は犬の何倍もの聴覚がその先へと導いていた。

 梅林を出て丘陵の頂上の目指すとやはりと言おうか、木製の背凭れのないベンチが一台設置されてある。

 最近のものなのかまだ新しいが頻繁に使用されている形跡はない。

 よくは覚えていないが以前はただのアスファルトが敷き詰められた道だった気がする。


「……いた」


 それは格子状に絡んだ天蓋を左右で支える石柱に背凭れる人影を見つけた時だった。



『………………やっと見つけた!』



 疾風に絡め取られた音色は止まり、あと数歩で自分の頭より少し上にある肩に手を伸ばそうとした彼の心に直接響く。


「何すか?」


 その声の主を追憶の彼方から手繰り寄せる前に、筋肉質のあるそれを掴んでいた。

 意外と落ち着いた声色が返ってきて逆にこちらが驚いてしまう。

 体ごと振り向いたのは同性から見ても惚れ惚れするような爽やかな…けれど、どこか反抗的な印象を持つ俗に言うイケメンだった。

 右手に握ったものをまるで隠すようにズボンのポケットの中へ押し込むが吹き口の出っ張った部分が引っかかり、材質の特徴でもある艶が主の本意を知らず、または無視してこちらに自己主張をしている。


「キミの音色だったんだな」


「だっ
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