暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第百六十三話 紀伊での戦その八

[8]前話 [2]次話
 家康の傍から離れようとしない、家康を十重二十重に囲み彼を護っている。信長はその彼等を見て言うのだった。
「御主から離れるな」
「いつもこうしてくれております」
「三河者は忠義者揃いというが」
 その目で見てもだというのだ。
「よい家臣達を持っておるな」
「有り難きお言葉」
「この者達は御主の宝じゃな」
「それがしの第一の宝であります」
 今己を護る黄色の具足の者達がだというのだ、その中には陣羽織を着ている者もいる、そのどの者もだというのだ。
「何よりも」
「わしもそうじゃが」 
 信長も家臣達のことをそう見ている、彼にしてもだ。
 だがだ、徳川家の者達の忠義を見てこう家康に言ったのだった。
「大事にするのじゃ」
「まずはこの者達をですな」
「民とな」
「心掛けておるつもりです」
「国の者達が御主を助ける」
 この彼等がだというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「はい、それではですな」
「常に大事にせよ、宝をな」
 信長の第一のだというのだ。
「これからもな」
「戦の時もですな」
「そうせよ。三河者が強いのもわかるわ」
 ただ個々が強いだけではないというのだ、徳川の兵達は。
「忠義も凄いものよ」
「それがしは果報者ですな」
「その果報は御主が招いたものじゃ」
 他ならぬ家康、彼自身がだというのだ。
「御主にそれだけの徳があるからじゃ」
「だからですか」
「そうじゃ」
 家康もだ、それだけの忠義を向けられるものがあるというのだ、信長は馬上から共に馬に乗り隣り合っている彼に言った。
「御主もな」
「左様ですか」
「そうじゃ」
 こう言うのだった。
「だからそのまま励むのじゃ」
「徳を失わぬ様に」
「今以上の徳を持つ様にな」
 失うのではなくだ、より多く持てというのだ。
「そうするのじゃ」
「今以上の徳をですか」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「そうせよ。わしもじゃがな」
「ですな。では共に」
「徳を備えようぞ」
「では」
 こうした話もしてだ、そのうえでだった。 
 彼等は敵に追いつかれぬだけの速さで道を進んでいく、闇の服の者達はその彼等を追いながらこう言ったのだった。
「速いのう」
「うむ、速いぞ」
「敵の動きは速いぞ」
「全くじゃ」
「皆馬に乗っておる様じゃ」
 そこまでの速さだというのである。
「速いわ」
「急ぐか」
「うむ、今以上にな」
「急ごうぞ」
 決まった将はいない、それで口々にこう言ってだった。
 彼等は無造作な感じで追う、速い者だけが追うという有様だった。陣形は崩れ周りも見ていない。追うことだけに必死だ。
 そのうえで追いだ、信長の馬印を見て言うのだった。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ