石尾意志
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醜いとは思っていなかった。
でも、所詮そんな理想像はぼくの勝手な押し付けなのだろう・・・それが分かっていてもぼくは父が嫌いだと思う。
ぼくは、その後、各病室を見舞いにいった。これもまた、夏休み中のぼくの日課だ。
ぼくがなぜそんなことをしているかというと、この病院に入院してる人を元気付けるため・・・というのももちろんあるのだが、なによりもぼくは父が何をしているのかが知りたかったのだ。
父が何を思っているのか探りたかったのだ。
一〜二十病室まで回って、昼食をとった後にまた二十一〜四十四病室を回り、次はあの子のいる病室に向かった。
彼女はそこで本を読んでいた。
その姿が異様ににあっていてしばらく見惚れて声もでなかった。そうして、突っ立っている間に彼女はぼくにきずいて
「こんにちは。来てくれたんだね、ありがとう。」
と、声をかけてきてくれた。
「そこの椅子に座って。」
とすすめられるままぼくは彼女がいる介護用ベットの側においてある椅子に座った。
「元気そうだね。」
と、ぼくは当たり障りのないことを言ってみた。
それに対して彼女は
「うん。君のお父さんのおかげでね。」
と、答えた。
父ならば、ここで「君が助かったのはあくまで君の力のおかげだ。」とでも言うのだろう。
だけど、やっぱりぼくはそうは思わない。
人はその力によって他人を救うことができる、とぼくは思う。
ぼくは、彼女にいろいろな質問をした。
なぜ、ここに来たのか、好きな食べ物は何か、好きなことは何か。
それによると、彼女は、事故に遭って救急車によって運ばれて来たらしい。そして、クレープと読書が好きらしい。
その様子を見ると事故のことなど気にしていないようであったが・・・・しかし、ぼくの母のような例もある・・・・
気にしていないように見せて実は気にしているのかもしれない。
これから、ここに来る時はクレープをもってこようと思った。
ぼくは、彼女のいる病室を出て次の病室へと向かっていった。
ぼくは日課を終わらせた後、ノートを開いてそこに今日あったことを書いた。
新しい入院患者である彼女のことや昨日亡くなった患者さんのことなどを書いた。
次の日も、その次の日もそんなことを繰り返していた・・・もちろん、彼女の病室へと向かうときはクレープを持っていった。
彼女と話をしていくうちにぼくは彼女に魅かれていくようになった。
そんな、ある日、彼女は手紙を一通残して病室から消えた。
ものすごく嫌な予感がした・・・
その予感が当たらないことをただ祈ってぼくは病院の屋上へと向かった。
残念ながら、ぼくの予感は的中することとなった。
つまり、そこに彼女がいたのだ。フェンスを乗り越えて少しでも風が吹いたらそのまま落ちてしまいそうな体勢で彼女はそこにいた。
ぼ
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