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赤とんぼとステーキ
第三章
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第三章

「これだけ釣ったら」
「そうか。いいか」
「いいじゃないか?皆食べられる数はあるだろ」
「そうだな」
 その言葉に周吉も頷いた。
「じゃあ勇ちゃん」
「ああ、帰ろう」
 こうしてであった。彼等は立って釣り道具を収めて帰ろうとする。その赤い世界の中で。
 周りを見回すとそこには。空に無数の赤とんぼが飛んでいた。
 その赤とんぼ達を見て。周吉が言った。
「この連中は腹一杯食ってるのかな」
「そうじゃないのか?」
 勇作もその赤とんぼ達を見ながら周吉に答えた。
「だからこれだけ元気に飛んでるんだろ」
「とんぼでも腹一杯食ってるのか」
「俺達も食いたいよな」
「そうだよな」
 そしてまたこの話をするのだった。
「食い者を好きなだけな」
「なあ」
 勇作はここで周吉に対して言ってきた。そのどれだけいるかわからない自分達の上に飛ぶその赤とんぼ達を見ながら。彼等は飽きることなく空を周っている。
「それでだけれどな」
「それで?」
「そのステーキだよな」
 さっき話したそのステーキの話である。
「アメリカの奴等が食ってるそのステーキな」
「それがどうしたんだ?」
「俺、それを何時でも好きなだけ食えるようになりたいな」
 こう言うのである。
「いや、俺だけじゃなくてな」
「勇ちゃんだけじゃなくてか?」
「日本の皆がな」
 皆だというのだ。
「そのステーキを腹一杯食えるようにしたいよな」
「そうだよな」
 その言葉に頷く周吉だった。
「それはな」
「こいつ等だって腹一杯食ってるんだ」
 その赤とんぼ達もだというのだ。
「だからな」
「そうだよね、食べられるようになろう」
「だよな」
 こんな話をしながら二人で赤とんぼ達を見ていた。赤い空の中で飛んでいる彼等を。
 そしてそれから暫く経って。日本は復興してきた。その頃には周吉も成長していて中学校に通っていた。詰襟の彼の後ろには一人の可愛らしいセーラー服の女の子がいた。
 土手の上のその道を歩いていた。丁度学校帰りである。彼はその土手のあちこちに石が転がっている道を歩きながら。右手にある家を見ていた。
 その彼にだ。後ろにいる女の子が声をかけてきた。
「ねえお兄ちゃん」
「何だよ」
「また野球してたの」
「野球部だからな」
 そうだと。その三つ編みの女の子に対して答える。
「それはな」
「そうなの」
「だから当たり前だろ?そういう小枝子だってな」
「私も?」
「あれだろ。美術部だよな」
「ええ」
「絵を描いてたんだろ?」
 半ば当たり前のことを尋ねるのだった。
「今日も」
「そうよ」
 そしてそうだと答える小枝子だった。三つ編みのその顔はあどけない。黒い目がかなり大きい。
「それはね」
「そう
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