第5章 契約
第90話 朔の夜
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が感じた気配を表層に表わす事もなく、普段通り、非常に愛想良く答える俺。真冬の……更に、逢魔が時に相応しくない爽やかな笑顔を込みで。
但し、此の場に存在しているのは、どちらがタヌキで、どちらがキツネ。そう言う状況だとは思いますが。
俺の想像やこの目の前の男性から受けた印象が間違っていなければ。
「え〜と、もう一人の女性騎士の方はどちらに御出でなのでしょうか」
目に隙のない……、狡知に長けた相手で有る事が感じられる視線で周囲を伺いながら、そう問い掛けて来るラバン。その細い目が探しているのが本当にブリギッドなのか、それとも俺に付け入る隙なのか判らない雰囲気。
う〜む。ただ、どうにも小物臭がして、この程度のヤツが……。
「彼女は別の場所を調べて居て、未だ戻って来ていないのです」
ただ、撒き餌の俺たちが、あからさまに怪しい素振りを見せる訳にも行かないので、ここは我慢。コイツが違うのなら、また、別の場所で釣り糸を垂らせば済む話ですから。
それに、風の精霊王の見立てが誤っていなければ、遅くとも今晩には何か動きが有るはずですし。
俺の言葉に、表面上は少し迷うような素振り。しかし、内面から発する雰囲気はかなりどす黒い、嫌な気を発しながら、
「実は、妙な連中が森の奥に入って行くのを目撃したのですが……」
☆★☆★☆
陽が沈むと共に急速に冷やされて行く大気が、蒼い光輝の元に深々と澱んで居た。
未だ宵の口と言う時間。しかし、世界はまるで深夜のように静まり返っていた。冬枯れの森の中を、在る一点を目指して進む俺たちの足元を照らす物と言えば、肩口の高さに掲げた魔法の明かりと、
そして、遙か頭上……木々の切れ間から垣間見える蒼き偽りの女神のみ。
冬の透き通った氷空に、その寒々とした容貌を浮かべる真円。熱を一切伴う事のないその蒼き光輝が、地上のありとあらゆる物、者、モノの上に、分け隔てなく降りそそいでいた。
そう、今宵は朔の夜。普段は蒼き月と共に蒼穹に在る紅き月が隠れる夜。
聞こえて来るのは枯草を踏みしめる自分たちの靴音。そして、それぞれの口元を時折、白くけぶらせる微かな吐息のみ。立ち止まり、耳を凝らしたとしても周囲に存在しているのは……ただ、静寂のみ。
冬特有の強い風が吹く事もなく、獣の吼える声さえ聞こえて来る事もない。
森の魔獣、妖物、そのすべてが、今宵、この森の奥で何が起きるのかを本能的に知って居るかのようにじっと息をひそめている。そんな風に感じられる夜。
まるで、この森すべてが既に異なった世界へとその相を移して仕舞ったかのように、世界全体が不気味な沈黙を続けて居たのだった。
そうして……。
それまである程度、付近の住民の手に
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