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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第90話 朔の夜
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ならば。

「トコロでなぁ。こんな場所まで連れて来てからでスマンのやけど……」

 結局、今回の事件も強力な邪神召喚事件の可能性が非常に高い、と言う事が判り、その対策に思考を切り替えようとした俺に、更に言葉を掛けて来る風の精霊王。
 その表情は猫に相応しい哲学者然とした表情。

「にいちゃんはこれ以上、この事件に関わる必要はないで」

 タバサの胸に抱かれたまま、そう告げて来る風の精霊王。
 そして、

「この事件は、このハルケギニアに住む人間たちが招いた事件。陰の気が滞るような……理を捻じ曲げるような行いを続けた為に招いた災厄。それを、この世界の住人ではないにいちゃんが、これ以上、身を危険に晒して事件を解決せなアカン理由はない」

 まして、にいちゃんが交わした約束は、この世界を護る事ではなかったはずや。
 ……と、そう締め括る風の精霊王。

 成るほど。陰の気が滞った結果、招かれた災厄と言う事ですか。そう考えながら、俺は風の精霊王から、彼女を擁く少女と、そして、今一人の少女へと視線を巡らせた。

 そう。かなり西に傾きつつある陽光を受けながら、凛然とした様で俺の前に立つ二人の少女たちに。
 共にこの場に来てから一言の言葉を発する事もなく、ただ俺を見つめるのみ。

 但し、その視線の質が違う。
 蒼い瞳はすべてを望みながら、それでも何も望まない……ただ、俺を見つめ続ける観察者の視線。
 片や、黒の瞳は、挑むような、怒るような……そして、何故か祈るような視線。

 確かに俺がタバサと交わした約束はこの世界を護る事では有りません。
 更に、ブリギッドと交わした約束もまた然り。そんな英雄的な物では有りませんでした。

 しかし……。

「陰気を滞らせて、それが招いた災厄ならば、それをどうにかするのが仙人の仕事。所詮は地仙に過ぎない俺でも、見て仕舞った物を見なかった事にして、ここから立ち去る事など出来る訳がない」

 確かに出来る事と出来ない事は有ります。俺は無敵の存在でもなければ、万能の神でも有りませんから。それでも、危険だから……。自分には関係ない事だからと言って、見て見ぬ振りは出来ません。
 何故ならば、それは大道を踏み外す行為。仙人としては誉められた行為では有りません。

「それに、そもそも論として、ここで逃げ出したら、例えすべてが丸く収まって事件解決に至ったとしても、他の誰でもない……俺が俺自身を許せなくなる」

 天や他人は騙せても、自分自身を偽るのは矢張り難しい。

 結局、タバサにも。そして湖の乙女にも説得出来ない事を、今日初めて出会った相手に説得出来る訳もなく、今までと同じ結論に達する俺。

 その俺の答えにまったく動じる事のないタバサと、そして、少し首肯いて魅せ
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