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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第90話 朔の夜
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 確かに、元々霊格が高い龍種で霊力だけは異常に高い能力が有ったけど、自らがそれを細かく制御する才能に恵まれて居なかったので、宝の持ち腐れ状態だった人間。
 しかし、このハルケギニア世界に召喚されて俺の霊力を制御出来る巫女……タバサや湖の乙女を得た事に因り、その才を如何なく発揮出来るように成ったと言う事。

 もっとも、霊力を上手く制御出来ずに暴走させる危険性が有ると言う事は、裏を返せば、自らの感情の制御が出来ていないと言う事ですから……。
 つまり、俺自身が人間として未熟で、まったく完成して居なかったと言う事なのですが。

【タバサ、大丈夫か】

 実際の言葉にする事はなく、問い掛ける俺。当然、視線はアルマンに固定したままで。
 陰の気に満ちた偽りの生を持つ存在。吸血鬼と言う存在に取って、解き放たれた生命の息吹を放つ世界は煉獄に変わって居るはず。大地は灼熱の鉄板と化し、風も燃え上がるような熱風と感じて居るはず。

 そして、それはタバサも変わらない。
 故に、この場に彼女を連れて来るのは……。
 しかし……。

【問題ない】

 口調は普段のまま。何の気負いもてらいもない、ただひたすら静謐な声が俺の心の中でのみ響く。おそらく、表情も普段の彼女のままなのだろう。小柄で、しかも元々彼女の気配そのものが淡い。まるで路傍の石の如く、ただ其処に在るだけ。そんな普段の彼女のままの気配。しかし、彼女と繋がっている霊道が伝えて来ている感覚は……。
 完全に吸血姫化している訳ではなく、まして、未だ血の伴侶を得た訳ではない。故に、辛うじて立って居られる。そう言う状況のはず。

【上等!】

 妙に負けず嫌いで、意地っ張り。それに頑固。そんな彼女に何を言っても聞くはずはない。まして、彼女が傍に居る事を予言神たちは推奨したし、更に、俺一人では不測の事態に対処し切れない可能性も有る。
 ならば、俺に出来る事はただひとつ。この有利な状況。年が改まるまで……。崇拝される者ブリギッドがその霊力を籠めて突いて居る除夜の鐘や、彼女が支配する炎の精霊たちによる五山の送り火。それに、陣の効果に因り相手が弱体化している間に勝負を決める事。

「小僧を捕らえろ。但し、生きたまま。生きたまま心臓をえぐり出さなければ、夜の翼が呼び出せない!」


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