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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第90話 朔の夜
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「これは……」

 異様な臭気。このハルケギニア世界に召喚されて来てから非常に馴染みの有る雰囲気。先ほどまで感じて居たのは冬の枯れた草。そして、鬱蒼とした森に相応しい腐葉土の香り。確かに、多少、静か過ぎる……と感じる点もあったが、それでも極々一般的な冬の森の気配であった。
 しかし、鬱蒼とした森に囲まれたその場所に辿り着いた時に感じたのは――

「どうやら兄ちゃんの予想が当たったみたいやな」

 本来、猫と言う動物に笑顔と言う表情を作る事は出来ない。しかし、この時……。少し西に傾きつつ有った陽光が照らしだす微妙な陰影と、そして他ならぬ彼……いや、彼女の言葉の中に含まれて居る微かな感情が、この時の彼女が笑って居たように感じさせた。

 先ほどの森の入り口からかなり奥深くに進んだ森の木々が途切れる空間。その中心に存在する泉。
 その泉の畔に存在する巨大な……。丁度、人が一人横になれるほどの平らな上部を持つ岩。いや、この岩はおそらく自然石などではない。明らかに人の手が入った……石製の寝台。

 そして、その周囲を赤とも黒とも違う彩が覆う。
 更に、その泉を彩る色彩は……。

「最後の生け贄の心臓が捧げられてから既に八日。自然界でそれだけの時間が経過していたのなら、これほどの死の気配を残して居る訳はない」

 周囲を一度見渡した後に、そう独り言のように呟く俺。
 そう、これは一種の異界化。おそらく、この泉の周囲は既に現実界と異界との境界線と成って居ると言う事なのでしょう。
 ただ、もしそうだとすると、この異界化の核をどうにかしない限り、常世からの侵食が進み、やがては……。

「あいつの属性は闇。そして水。今日は冬至やさかいに、アイツの能力が最も活性化する。何者がこないな外道な事を為しているか判らんけど、ヤツを復活させる心算なら、それは……」

 最後まで語り切る事もなく其処で言葉を打ちきり、枯れ草色に支配された大地から軽く精霊力を纏いタバサの肩に跳び上がる風の精霊王。見下ろされ続けて居る事に嫌気が差したのか、それとも大地に座るのが嫌に成ったのかは判りませんが。

 それにしても。
 成るほど。今宵がヤツを復活させるには最高のタイミング。そう言う事なのでしょう。
 但し――

「風の精霊王。それにブリギッド。少し質問が有るのですが……」

 どうにも話が一気に進み過ぎて居るようなので、一度待ったを掛ける俺。それに、おそらく、俺が想定して居る今回の事件の黒幕……と言うか、復活させられようとしている邪神と、この白猫姿の風の精霊王が想定して居るヤツと言う存在とはイコールで結ぶ事が出来るとは思うのですが。

 しかし……。

「大航海時代を迎えていないハルケギニア世界。俺の住んで居た世界で言うのなら、中世か
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