暁 〜小説投稿サイト〜
BLUEMAP
第一章 〜囚われの少女〜
帰るべき場所
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


 暗い。そして暖かい。肌が光を、空気の温度を感じる。
 僕の周りだけ、空気がきらきらと輝いていた。僕はこれを知っている。この光が何か。今僕がどこにいるのか。僕が立っている場所の、大気を漂うちりや(ほこり)が光を携えている。光は僕だけを照らしていた。
 ここには誰もいないけれど、目の前にはたくさんの人がいる。僕は独りじゃなかった。
 上を見れば眩しい。スポットライトに照らされ、僕は舞台に立っていた。今僕ができることは、ただ一つ。途切れた物語を紡ぐこと。
「さあ、僕を連れて行っておくれ。空へ――」
 僕はここに立つのが夢だったんだ。生きていて、ここに来ることができてよかったと。そう思ったんだ。

 会場全体に拍手が沸き起こる。それは先ほど劇を演じた俳優に、そしてこの一人の少年に送られたものだ。
 舞台の中央で照明を浴びているそれは紛れもなく、姿を消したはずのジャックだった。
 しかし団員の皆が知るジャックとはかけ離れた、生き生きとした姿であった。舞台袖は驚きと不思議と、それから劇場全体が喝采で溢れていた。


――そうして幕が降りたのだった。


 劇団『マスク・パレード』の団員は用意された控室に集っていた。
 そして口々に、先程の劇に至るまでを語り合う。
「まさかあのジャックがな」
「あんなことまでされたらねぇ……」
 たったいま控室へ向かう所であるジャックは、噂をされていることなど知る由もない。
 団員たちの話によると、消えたジャックが突然戻ってきて、劇を務めることを突然言い出したのだ。その時から普段と違うジャックに皆は驚き戸惑ったのだが、ジャックの熱意とその案が寸劇よりいいという事で、多くの賛同を得たようだ。
――それが今に至る。
 入り口のカーテンを押し開け、皆より一足遅れたジャックは控室に入る。
「ジャック。アンタ、すごくよかったじゃない」
 団長ライラ、ミカエラ、シドが詰め寄る。
「ジャックってあんなに上手なのね……初主演だなんて信じられない! なんだか感動しちゃった!」
「お前、すげぇよ。見直したぜ!」
 こんな風に賞賛を得る事に、ジャックは奇妙な違和感を覚えた。
「何なんだ? 一体……。記憶が飛んでいる……?」
 何やら神妙な表情でぶつぶつと呟くジャックに、三人は首を傾げるばかりだった。
「ま、まぁ立ち話も何だから、すぐそこで休みましょ♪ 疲れたでしょう」
 団長が話をふると、一行は部屋の入り口付近にある、白いクロスが掛けられた丸テーブルを囲って椅子に腰かけた。


「土下座あぁ!?」
 ジャックは驚きの声をあげた。それには皆が驚く。
「そうよ、ジャック。アンタしてたじゃない? 『僕が悪かった』って……団員全員の前で」
 全く身に覚えがなく、ジャックは青ざめた。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ