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第一章 〜囚われの少女〜
夢の泉
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とう少年の空腹はそれをかじっても収まらなくなってしまいました。
 またしばらくラクダの背に乗っていると、少年は意識がもうろうとしてきます。涼しい陰をくれていた葉っぱは、暑さのせいか少ししなびたように思います。その葉っぱも食べてしまおうとさえ思いましたが、それはラクダがかわいそうなのでやめました。
――夢の泉……一体どこにあるんだろう。そしてそこには、本当にたどり着けるのかな。あの鳥を……助けることはできるのかな……。
 思いを巡らせるうちに、少年はいつのまにか眠りの中に落ちていき、乾いた砂の上に崩れ落ちてしまいました。
 そのまま砂に埋もれていく感覚に、少年は飲み込まれていったのです。


――


 ぽつん、と何かが頬に当たりました。
――……冷たい。
 頬に落ちたのは水滴でした。
 やけに固く湿った土の上で、少年は仰向けのまま目を開きます。
「ここは……」
 体を起こして辺りを見回せば、大きな木々の生い茂る、まさに楽園ともいえる光景がありました。すぐそばには湖もあります。
 そしてまた、ぽつん、と頭の上に水がこぼれました。そこで見上げると、少年はラクダの姿に気が付きます。ラクダは背中の葉っぱから雫をこぼしていたのです。
「きみが助けてくれたんだね」
 ありがとう、と少年は首を垂れるラクダの頭をなでます。ラクダは照れたのか、少年の頬をなめました。
「くすぐったいよ」
 少年が笑っていると、少年のうしろ、草の生い茂った所からカサカサという音が聞こえました。
 それはどうやら足音だったようです。
「久々のお客さんね……今回はずいぶんと退屈させられたわ」
 そこにいたのは森の妖精のような少女でした。
「ここは夢の泉。女神の涙が欲しいなら、私を泣かせてくれるかしら? そろそろ本当に泣きたいの。心から泣かせて欲しいの」
 少女の後ろから少年に向かい、風が優しく流れます。それは少女の肩を通り過ぎ、茉莉花の葉色に似た、緑色の髪の端をふわりと揺らします。
 まるでそこから花の香りが漂ってくるようで、少年は心が包まれているような心地よさを感じました。
「君は……ここでずっと独りぼっちだったの?」
 少年は少女へ問います。
「そう。生まれた時から私はひとり。みんなはここを楽園と呼ぶのだけれど、まるで私は囚われているみたい。必要なのは私じゃなくて、“女神の涙”なのに」
 そう答える少女の表情からは、悲痛な思いがうかがえます。
「自由になりたいんだね。僕も同じさ」
「あなたと同じ? 自由なんて私にはありえないわ。それに、あなたは自由だからここに来れたんじゃない」
 少女はしばらく俯いたままでした。
「僕はある人のおかげで自由になれたんだよ。(お金の力だけど)……でも僕には何もない。だけど、君を自由にしたい」
 
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