第一章
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第一章
赤とんぼとステーキ
「夕焼け小焼けの赤とんぼ」
「おわれて見たのは何時の日か」
童謡を聞く。遠い日でのことだった。
周吉は今その童謡を思い出していた。夕暮れの赤い世界の中で。
今は人のすっかり減ったその道を歩いていて。そのうえで横にいる孫の準一郎に言うのだった。太い眉に切れ長の目をした老人である。銀髪を角刈りにしている。
「なあ準ちゃん」
「何、お爺ちゃん」
まだ幼稚園に通っている小さい男の子が応えて来た。見れば太い眉に切れ長の目と彼によく似た顔をしている。その子に対して言うのだった。
「何かあったの?」
「赤とんぼ好きか?」
こう自分の左手で手を引いている孫に対して問うのだった。
「赤とんぼは」
「赤とんどってこれ?」
準一郎はそれを聞いて自分の上に飛んでいるその赤とんぼを見た。二人のいる場所は川の土手の上にある道でそこを二人並んで歩いているのである。
「この飛んでるのよね」
「そうだよ。これだよ」
まさにこれだというのだ。
「これが赤とんぼなんだよ」
「ふうん、何か一杯いるんだね」
「昔から一杯いるんだよ」
それは昔からだというのだ。
「赤とんぼはね」
「一杯いるんだ」
「ここは随分変わったけれど」
今周りには右手に多くの住宅が土手の下から見えていてそれがずっと前まで続いている。後ろには線路がありそれが川を挟んで橋の上にもある。水色のアーチの線路橋だ。
その周りを見ながら。彼は言うのだった。
「赤とんぼは多いままなんだよ」
「そんなに多かったんだ」
「準ちゃんが生まれるずっと前からいたんだよ」
そうだというのである。
「赤とんぼはね」
「その赤とんぼってお爺ちゃんが子供の頃からいたんだ」
「そうだよ。お爺ちゃんが子供の頃はね」
そのことを思い出しながら話すのだった。その時のことをだ。
それはもう戦争が終わって暫く経った頃だ。その時のことだ。
ぼろぼろの服を着た子供の周吉はだ。川のところにいた。そこで幼馴染みの勇作と一緒に釣りをしてそれで話をしていた。
「なあ」
「何だ?」
「御前の父ちゃん戦争から帰ったんだよな」
こう勇作に尋ねるのだった。
「そうだよな」
「ああ、そうだよ」
勇作も彼と同じ様にぼろぼろの服を着ている。二人共丸坊主でまだ幼い顔をしている。勇作は吊り上った目をしていて周吉の眉はこの頃から太かった。
「三日前な」
「よかったな」
「御前の父ちゃんはどうなったんだ?」
「帰って来たけれどまたいなくなった」
こう答える周吉だった。目は釣りをしているその水面を見ている。
「またな」
「どっか行ったのか?」
「しょっちゅう田舎に買出しに出てる」
そうしていると
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