心を開いて、妹さん その一
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ていると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
俺が顔を上げたときには、簪さんは口元に手を当て、笑っていた。
どうして笑っているんだと訊いた俺に返ってきた答えは、
「ベインズくん。ナイフとフォークを使うのがヘタすぎ」
だそうだ。
まあ確かに俺はナイフとフォークを使うのがヘタだ。
俺はイギリスにいたときも箸を使っていたほうが多いほどだからな。
「本当にイギリスの人」
そう簪さんに問われた俺は、生まれも育ちもイギリスだと答えた。
でも中身は元日本人だけどな、とは言わなかったが。
ようやく半分に切り分けた鶏の唐揚げを簪さんの口元へと運ぶ。
「はい、あ〜ん」
俺は一夏たちとの話で簪さんを待たせてしまったのでお詫びのつもりだったのだが、なぜこんなことをしているのかという説明を簪さんにしなかったために驚いたような表情をするだけだった。
「うまいぞ、鶏の唐揚げ。肉は嫌いか?」
「鶏は、大丈夫」
俺が簪さんが食べるまでフォークを引っ込めないぞと言うと観念したのか、おずおずと口を開け始める。
その小さく開いた口に俺はフォークに突き刺さった鶏の唐揚げを押し込んだ。
口が閉じたと確認した俺は、ゆっくりとフォークを引っこ抜く。
簪さんの口がもぐもぐと動き出し、やがて喉を落ちていくのが見えた。
俺はそれを見たあと、残り半分の鶏の唐揚げをフォークに突き刺し、自分の口元へと運ぶ。
「あっ、間接キ……」
最後のほうは聞こえなかったが、簪さんはそうボソッと呟いた。
「うん? 今、なにか言ったか?」
「えっ! ううん。なんでもない」
簪さんは少し赤らめた顔をふるふると左右に振った。
ここで俺は背中に殺気――というか、突き刺さるような視線を感じていた。
俺は辺りを見回し視線の主を探す。
どうやら視線の主は食堂の入り口に立ち、こちらを見つめているようだ。
誰かと思ったら山田先生のようで、しかも目はハイライトを失っている。
その目が俺に向けられ、まるで信じられないものを見たといった感じにも見える。
俺が山田先生に声をかけようと席を立ったときには、すでに俺に背を向けた山田先生は食堂を去ろうとしていた。
俺が突然席を立ったので簪さんは驚いていたみたいだが、その簪さんに俺はゴメン少し席を外すと言って席を離れ山田先生を追いかけ始める。
俺が簪さんにしたことは少しやり過ぎだとは思ったが、タッグマッチ戦まで時間がないのも確かで、しかも簪さんと仲良くなるには原作一夏がやっていた方法が有効だろうと思ったからだ。
それ以外に効率よく仲良くなる方法が思いつかないということもある。
タッグ
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