十四章 幕間劇
一真の落し物
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食べ終えて、お茶を飲み終わって少しが経った。
「さて。なら、そろそろ帰るか」
「もうこんな時間か」
「あ・・・・はい」
一葉も一真も、本来ならば自分の隊に関する仕事があるはず。そんな貴重な時間を割いてまで相手をしてくれたのだから、それ以上ワガママは言えない。
「(お姉様も、旦那様も私に気を使って下さっているのに・・・・どうして、私は・・・・)」
この機を逃せば、もう、この布の事を告げる時間はないだろう。
「(旦那様もおっしゃっていた。やりたい事は・・・やらなきゃいけない事は、口に出しておいた方がいいって)」
だからこそ、言わなければいけない。
「あの・・・・・っ」
今度こそ、ちゃんと。
「双葉・・・?」
「どうかしたか?」
「旦那様・・・・。これ・・・・」
振り絞るように呟き、胸元から取り出したのは、一枚の白い布。
「ん?それは俺のお気に入りのハンカチではないか」
見た瞬間、一真はそれが何か理解したらしい。
「お気に入り?女からもらったものか」
「違うよ。俺が気に入って買ったものだ。この世界に来る前にだが、そうか。どこかでなくしたと思っていたが、双葉が拾ってくれたのか」
「この手拭い、拾ってすぐにお返しすればよかったのに、ずっとお返しできなくて。旦那様が京に来て下さってからも、あの夜にも、今までの旅の間にも、いつでもお返し出来るはずだったのに、ごめんなさい。これがあったら旦那様が、近くにいて下さるような気がしたから。だから、本当は。でも旦那様が越前に行ってしまったら、またお返し出来なくなってしまうから・・・・っ。ごめんなさい。嫌いになってくれても、構いません。本当にごめんなさい・・・・旦那様」
「一真様・・・」
「分かっているよ、双葉。もしかして、ずっと元気がなかったのはそれのせい?」
「・・・・はい。・・・・・ふぇ?」
双葉が思わず変な声を上げてしまったのは、垂れた頭にぽん、と大きな手が乗ってきたからだ。
「だからか、今日はずっと元気がないのはそのせいだったとはな。だけど、気にしなくてもいいんだぞ」
「え?」
「今日はずっとそんな調子だからな、何か隠していることは分かっていたが。そんなことはいつでもよかったのにな」
「でも・・・・でも私・・・・。こんな悪い事したのに・・・」
「それは悪い事ではない。それは俺のことを好きでいてくれているからだろ」
「許して、くださるのです・・・・か?」
「許すも何も、双葉は俺の落し物を大切に持ってくれただけだ。だからこれ」
そう言って双葉の手をとった一真が握らせたのは、一枚の白い布。たった今、双葉が返したばかりの、一真のお気に入りのハンカチだ
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