暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
風吹く朔の夜、月は昇らず
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て行く中で、くつくつと喉を鳴らして店長は笑った。なんとまあ、自分の望んだ幸せな食事場だけは変わらないモノですね、と心の内で呟きながら。
 月が蕩けた表情を浮かべて幸せに浸り始めたのを確認してから風の方を向いて、店長は感謝を込めコクリと頷く。ビシリと指を立てた風に、貸し一つだと示された事でため息も零す。後に、彼に向かって優しく話しかけた。

「徐晃様、これからは店長と呼んで下さい。お代金は……此処に無い料理を思い出すか、改善点の提案で割引いたしましょう」
「……前までは無料だった、なんて言いたげだな。じゃあ先に一つ、ミルクアイスを作れるなら生クリームも作れるだろ」

 冷たく懐かしい味を楽しんでいた秋斗は、店長の言葉に現代ではポピュラーなお菓子の素材を提案した。店長は昔の彼が言わなかったモノを聞いて首を捻る。

「生、くりぃむですか? 聞いた事がありません。冷却の仕方が分からずアイスは封印されていたので……派生した料理は教えて頂いてませんね」
「甘味の世界が変わるモノだ。生クリームを使った料理も結構あるから教えようか?」

 驚愕。ふるふると震えだした店長は歓喜を抑える事が出来ない。結局どこまで行っても彼は料理バカだった。

「お、おお……まだ『れしぴ』に無いモノがあると! なら思い出せる限り書いて来て頂けますか!?」
「じゃあ試作する時は教えてくれ。それと割引はいらん。これだけ美味い料理なら自分の働いた金で食いたいんだ」
「ダメです。これは等価交換なのですから。それと覇王様は料理の腕前も高いのですが、あなたの知っている料理は一切教えないで頂きたい」

 訝しげに見やる秋斗は未だ出会った事の無い覇王の情報を与えられ、店長が厳しく言う事に疑問を覚えて聞き返した。

「なんでだよ?」
「味で負ける事は万に一つも有りません。しかし……私より先に完成させられたら悔しいじゃないですか」

 拗ねた子供のような口振りに吹き出したのは仲達以外の全員。仲達は店長が子供っぽい事を知っている為に、小さく呆れてアイスを食べ続けていた。

「……っ……はは! 楽しそうだな店長。それが追加の条件なら約束しよう」
「では割引きと引き換えに新規の『れしぴ』を頼みます。これからよろしくお願いします。多くの人に笑顔を作れる料理の為に、そして私の大陸制覇の野望の為に」

 一瞬、目を丸くした秋斗は笑顔で差し出された片手を握り、

「ああ、人を幸せにする一番の方法は料理だし、俺も店長の野望を手伝わせて貰えるのは嬉しい。よろしく頼む」

 ニッと歯を見せて笑い返した。
 この方は変わらないのだ、と店長は嬉しさと寂寥が綯い交ぜになった心のまま、仲達に優しい目を向ける。

「仲達さん、どうする事にしましたか?」

 既に食べ終わり、
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