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妖僧
第四章
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「ですから」
「だからだというのか」
「左様です、修行を積み学問に励み」
「悟りに達するか」
「煩悩から解き放たれ」
 そうしてだというのだ。
「涅槃に入りたいのです」
「煩悩か、では無理じゃ」
「無理とは」
「今の御主は煩悩から解き放たれることは出来ぬ」
 それは決して、という言葉だった。タムリットはサッチャラーンに対してこれ以上はないまでに厳しい口調で告げた。
「絶対にな」
「それは何故でしょうか」
「煩悩は執着から脱するもの、しかし今の御主はじゃ」
 魂で修行を続け学問に励む彼はというのだ。
「悟りに執着しておる」
「悟りを目指しているのです」
「いや、御主のは執着じゃ」
 それになるというのだ。
「だからじゃ、今の御主はじゃ」
「悟りに達することは出来ないと」
「そうじゃ、御主はもう死んだのじゃ」
「はい」
 このことはわかっていた、サッチャラーン自身も。彼は今も瞑想をしながらタムリットに応えている。まるでそうしなければならない様に。
「わかっております」
「では次の生に入れ」
「しかしそれは」
「言った筈じゃ、御主は死んだのじゃ」
 サッチャラーンにまたこのことを言うタムリットだった。
「それならばじゃ」
「次の生に入れと」
「その通りじゃ、今の御主は悟りに因われておるのじゃ」
 つまり悟りを開こうとする煩悩に因われているというのだ。その為に死ししても尚生前の様に修行し学んでいるというのだ。
「それから脱せよ、その為にはじゃ」
「次の生に入れと」
「そうじゃ、わかったな」
「ですがそれでは」
 タムリットの言葉は受けた、だがだった。
 それでもだ、サッチャラーンはこう彼に言うのだった。
「悟りは」
「今の御主では絶対に開けぬ」
「因われておるが故に」
「放り捨てよ、その煩悩を」
 仏の教えで最も忌まれているものを強く出す。
「わかったな」
「では」
「悟りは次の生で目指すのじゃ」
 タムリットはここで穏やかな声になった、そのうえでの言葉だった。
「ではよいな」
「そうすべきですか」
「今は何をしても何もならぬ」
 悟りは開けないというのだ。
「だからよいな」
「左様ですか」
「ではよいな」
「確かに。言われてみますと」
 どうかとだ、サッチャラーンもわかった。彼も伊達に修行を重ね学んできた訳ではない。決して愚かな者ではないのだ。 
だからだ、こう言うのだった。
「拙僧は煩悩に因われています」
「自覚出来たな」
「悟りに因われていました」
「ではな、わかったな」
「はい、それでは」
 サッチャラーンはタムリットの言葉を遂に全て受け入れた、そのうえで。
 次第にその姿を消していった、そうしてだった。
 後には何も残っていなか
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