第五章
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「今のところは」
「そうだね、そうしよう」
スミドロノフも彼等の言葉に頷いた、そうしてだった。
彼等は北極圏の生態系の調査を続けた、残念ながらもう一つの目的であるステラーカイギュウは見付からなかったが仕事は果たすことが出来た。しかも満足すべき調査結果を持って行って。
日本の神戸では無愛想な青年が十九世紀イギリスを思わせる喫茶店のカウンターでコップを洗っていた。その彼にだ。
あの男がだ、カウンターの席からコーヒーを飲みつつ言ってきた。
「水の禍々しき神を知っているか」
「水か」
「そうだ、水のクトゥルフだ」
「名前は聞いている」
男、牧村来期は無愛想なまま男、死神に返した。
「人の姿に蛸の頭でだな」
「身体の各部に牙の様な爪が出ている」
「その姿を見れば気が狂うか」
「そうした神だ」
「最近あの連中と戦っているが」
牧村はコップを洗いながら死神に言った。
「俺もそいつを見れば狂うのか」
「戦える力があれば狂わない」
「そいつと戦えるだけの力がか」
「そうだ」
それだけの力があればというのだ。
「貴様は狂わない」
「そうか、ではな」
「今より強くなれ」
これが死神が牧村に言うことだった。
「わかったな、狂いたくなければな」
「そうなるか」
「貴様は今以上に強くなれ」
死神はコーヒーを飲みつつ牧村に語る。
「少なくとも力に飲み込まれ人でなくなることは克服したからな」
「わかった、ではな」
「これでも貴様には期待しているのだからな」
こう牧村に言いコーヒーを飲む死神だった、北極でのことは話さないまま。そのうえで今はコーヒーを楽しむのだった。北極とは全く違う熱いそれを。
封じ込められたもの 完
2014・1・24
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