第一章
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封じ込められたもの
ロシアから北極海に調査団が出ていた、この調査団が探しているものは。
「本当にいますかね、ステラーカイギュウ」
「あの生きものが」
「さてね」
調査団の隊長であるイワン=スミドロノフは首を傾げさせて団員達に応えた。熊を思わせるがっしりとした身体にやや出た腹、赤い鼻に皺は多いが髭のない顔の中年の男だ。目は黒く髪の色は蜂蜜色だ。禿げてはいない。
「それはね」
「わからないですよね」
「実際のところは」
「北極海と言ってもね」
調査団の船の中でだ、スミドロノフはウォッカを飲みつつ団員達に話す。勿論団員達もウォッカを楽しんでいる。
「広いからね」
「相当にですよね」
「広いですよね」
「そう、あのカイギュウはベーリング海峡のところにいたけれど」
それでもだというのだ。
「そのベーリング海もね」
「滅茶苦茶広いですよね」
「あそこも」
「しかもだよ」
それに加えてだというのだ。
「あそこは人も少ないよ」
「寒いですしね」
「好き好んでいく場所じゃないですね」
それこそ漁でもないとだ。
「北極海自体が」
「観光で行く場所じゃないですね」
「僕達みたいに動物を探しに来るか航路でもないとね」
それこそだとだ、スミドロノフは言う、
「ここには来ないよ」
「そうした場所ですよね」
「とても」
「そうした場所だよ」
この北極海はというのだ。
「探検しがいはあってもね」
「あるのは氷と海」
「それ以外はないですね」
「北極独自の動物はいるけれどね」
スミドロノフはウォッカを飲みつつ笑って言う。鉄の船の中は何重にも防寒の為壁が設けられていて暖房もかなり効いている。皆厚着で寒くはない。
だが場所が場所だ、それでスミドロノフはこう言うのだった。
「寒いからね」
「はい、船の外に出ますと」
「もう地獄ですからね」
「眉毛さえ氷りますよ」
「息すらも」
「シベリアと同じだよ」
その寒さはというのだ。
「いや、それ以上だね」
「緯度も上ですしね」
「それだけに」
「うん、だから普段はこの中にいよう」
船内にというのだ。
「さもないと冗談抜きで凍死するからね」
「順番で見張りを出して」
「そうしてですね」
「そう、今みたいにね」
こう話してそのうえでだった、彼等は船の中で今はウォッカを飲みつつ談笑していた。そうして順番で船の甲板に出て海や氷を見回すが。
目的のカイギュウは見られなかった、北極海の沿岸を見て回っていったが。
どうしても見付からない、それで若い学者がスミドロノフに言った。今はこの学者とスミドロノフが甲板に出て見回っていた。
「この辺りにはいないですかね」
「そうみたいだね」
「まあベーリン
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