第一章
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品性
床間高作の仕事は一応は経済評論家になっている、俗に市民派の経済評論家として弱者の味方だと言われている。
しかしその文章と発言はだ、保守派からはこう言われていた。
「品がないんだよ、あいつは」
「辛口っていうけれどな」
「只の罵倒だろ」
「過去を暴いての誹謗中傷ばかりじゃないか」
「そもそも今時マルクス主義で経済を語れるのか」
この疑問も呈されるのだった。
「マルクス主義はもう終わった」
「ソ連の崩壊でな」
「あいつの主張は既にそこで終わったんだ」
「ソ連の崩壊でな」
言うまでもなくソ連の崩壊で共産主義即ちマルクス主義経済学というものの欠陥が世界に露呈してしまったのだ。
「だからな」
「あいつはもう罵倒しかないんだ」
「それだけしかないからな」
「だから保守派なら誰彼なしに罵倒するんだ」
「マルクスから出ていない奴だ」
「経済がわかっていない」
経済評論家だがだ。
「ああして罵倒するしかない」
「罵り芸しかない奴だ」
「その程度だ」
それが床間だというのだ、彼が批評だと思っているものは罵倒と認識される代物だというのである。だが。
床間はそう考えてはいない、確かにソ連は崩壊して久しく日本の左翼勢力は退潮する一方だ。だがそれでもだ。
左翼関係者はまだマスコミや知識人の世界では少なからぬ勢力がある、そのツテで仕事をしてだ。
書いて発言をしていく。その発言はというと。
「あいつは元は共産主義者だった」
「あいつはまだ懲りないのか」
「陰性馬鹿と陽性馬鹿だ」
「腐儒者だ」
「似非思想家に過ぎない」
これが文章であり発言だった、床間の。
「フルチンの下品さがある」
「性器に顔がある様な奴だ」
こうした文章や発言を批判だの批評だのと認識する者はいなかった、まさにだ。
罵倒、誹謗中傷にしか過ぎなかった。保守系批判も政府批判も完了批判も全てだ。そういう代物でしかなかった。
その床間の顔をテレビで見た子供がだ、母親にんなことを言った。
「ねえママ、テレビで悪口ばかり言ってる人がいるけれど」
「どうかしたの?」
「この人悪い人なの?」
こう母親に問うたのだ。
「そうなの?」
「その人が?」
「うん、眼鏡の奥の目はつり上がっていてね」
まずは目を言う。
「口から変に歯が出てて顔は痩せてて額が広くて」
「人は顔じゃないわよ」
「何か時代劇の悪人みたいな顔してるよ」
「そういえばこの人って」
母親は床間のことを知らない、テレビに出ていて時々その顔を見る程度だ。名前も職業も知らないのだ。
しかしだ、それでもなのだ。
母は床間のその顔を見てだ、こう言ったのだ。
「時々テレビで観るけれど」
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