第四章
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妙子は大学を卒業してスーパーに就職してやがて同じ職場に務めている同期の一人と結婚した、そうして。
子供が出来た、実家にその子供を連れて夫と共に帰って。
定年して今は悠々自適の父にだ、笑顔でこう言った。
「無事に産まれてよかったわ」
「ああ、よく頑張ったな」
髪がすっかり白くなり若い頃の精悍さはなくなり穏やかになっている表情でだ、父は娘と彼女が抱いている赤子を見て言った。
「わしにとっても初孫だな」
「ええ、そうね」
「まあ女の子だったらと思っていたが」
「男の子だったわ」
「そうなったな、しかしその顔は」
父は初孫であるその子の顔を見た、自分の向かい側に座布団を敷いて座っている娘に抱かれているその顔を。
「有一君にそっくりだな」
「そうなのよね、私じゃなくてね」
「完全に父親似だな」
「私も妙美もお母さんそっくりなのにね」
「そうだな、本当にな」
父は娘の言葉に頷きながら言う。
「わしに似て欲しかったな」
「この子が?」
「ああ、しかしそれでもいい」
父は温厚な笑顔でこうも言った。
「元気な子が産まれたからな」
「それでいいのね」
「それで充分だ、後はすくすくと育ってくれればな」
「そうね、それが何よりよね」
「健康第一だ」
子供は、というのだ。
「だからそれで何よりだ」
「そうよね、本当に」
「妙美も結婚するしな」
「あっ、そうなの」
「ああ、昨日決まった」
笑顔で驚く娘にだ、父は言った。
「まあ仕方ないことだけれどな」
「じゃあ準君と」
「そうだ、出来たんだ」
「お父さんにとって二人目の孫ね」
「全く、あいつは」
こう言いながらもだった、父ははにかみつつも笑顔で言うのだった。
「そこがな」
「そうね、昔からちょっと脇が甘いのよね」
「しかし準君もいい青年だ、大丈夫だな」
「何か幸せね」
「いい気分だろ」
「ええ、楽しいわ」
「そうだな、それにな」
ただ楽しいだけではなかった、今は。
「もう春だ」
「そうよね、今年の冬は寒かったけれど」
「馬も咲いているしな」
「梅よね」
梅と聞いてだ、妙子はすぐにこう父に言った。
「梅見てきていい?」
「ああ、やっぱりそう言うんだな」
「だって梅はね」
「御前にとっては特別の木だからな」
「そう、ずっと見てきているから」
それこそ物心ついた頃からだ、妙子にとっては本当に特別な木だ。だから今もその前に行って見に行くというのだ。
「だからね今もね」
「そうか、けれど今はな」
「ええ、もうすぐあの人も来るから」
他ならない妙子の夫だ、かけがえのない。
そしてもう一人のかけがえのない我が子を見てだ、笑顔で言うのだった。
「この子と三人でね」
「見るんだな。しかし準君もな」
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