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二つの水
第四章
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「だからだ」
「川を渡れないで」
「真水をかけると死んだんですか」
「そうなんですね」
「そういうことですね」
「どうやらな」
 こう村人達に話すのだった。
「そうかもな」
「あれだけ強い妖精が真水に弱いなんて」
「意外ですね」
「随分とあっさり退治出来ましたし」
「あんなのが」
「どんな奴も倒し方さえわかれば倒せる」
 長老は今度はこう言った。
「そういうことやもな」
「ですか、だから」
「この妖精も」
 村人達はまた応えた、何はともあれ凶悪な妖精は退治された。そしてその話を聞いた後世の学者は弟子にこう言った。
「この妖精はナックル=ビーという」
「海にいる妖精ですね」
「そうだ、凶暴なな」
「妖精にも色々ですが」
 弟子も言う、妖精と言ってもいい妖精もいれば悪い妖精もいるのだ。その見極めがイギリスでは重要である。
「このナックル=ビーはですね」
「とりわけ凶暴な種類だ」
「けれどですね」
「弱点はある」
 そしてだ、その弱点はというのだ。
「真水だ」
「それですね」
「真水には全く駄目だ」
「不思議ですよね、凶悪極まりない妖精なのに」
「この村人達が見付けてくれたことだがな」
「真水に弱いんですね」
「これはまさにどうした存在にも言える」
 このナックル=ビーだけではないというのだ。
「妖精だけでなく人間でもな」
「そしてこの世のあらゆるものにですね」
「無敵のものなぞない」
 無欠のものもだというのだ。
「決してな」
「どんなものでもですね」
「国家でも文明でもな」
 とにかく全てのものがだというのだ。
「弱点はあるのだ」
「そういうものですね」
「しかしだ」
「しかし?」
「その弱点を見付ける為には時には犠牲も必要だ」
「この村の様にですか」
「そうだ、この村も妖精の弱点を見付けるまで家を壊され人も家畜も襲われ食われていたな」
 学者は弟子にこのシビアな現実を述べた。
「そうだったな」
「大変でしたね」
「多くの犠牲が出た」
「その中で偶然見付けましたね」
「そうだ、犠牲を出しながらもな」
「犠牲、それに偶然ですか」
 しみじみとだ、学者は言った。
「その二つもまた必要なのですね」
「何かを見付ける為にはな」
「酷いことですね、それはまた」
「しかしだ、その犠牲と運が積み重なってだ」
 そのうえでだというのだ。
「人間は学び進化していくものだ」
「そういうものですね」
「弱点なり何なりを知ってな」
 そうしてだというのだ、学者は弟子にこのことを話すのだった。海添いの村の妖精退治は多くの犠牲を払いながらも人々の為に役立つものを遺してくれたことから。


二つの水   完


                 
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