私のご主人様
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笑っていた。地面に散らばっている人間たちように自分も殺されるのだろうか。なにせ、自分は声も出せないし女に抵抗することもできないのだから。
そうすると、ふっと指から力が抜ける。
安心したのも束の間、今度は女の体がガクッと糸が切れたように倒れてくる。なぜか冥星はそれを引きはがすことができない。脳ではそれを否定しているのだが、体が一向に動かないのだ。
女は苦しそうに口元を抑えた。よろよろと冥星の体をまさぐり、そして顔に手が触れる。
今度は諦めたような笑みを浮かべその唇に――
唇にキスをした。
当然、冥星の体が汗でびっしょりだった。こんな悪夢を見せられた日には全身を倦怠感に襲われて倒れてしまいそうだ。幾度となく見せられた悪夢ではあるが、一向に克服することができない。
精神が不安定になっているのだろうか。あの夢を見る時は決まって自分が何か悪いことをした時だ。いたずらや、暴力、卑怯なこと……まるでおしおきだと言わんばかりに女は冥星の前に現れる。冥星にとって、あの女は少しだけ特別な意味を持つ関係だった。
ほんの少し、ただ姉だったというだけの。
死んだ。
そう、あの女はもうどこにもいない。
ミュータントの本能に従い、殺戮を図った罪で……
あの女は収容所にすら入ることもできず、明子の銃弾によって殺されたのだ。
死ぬときは死ぬ。あっけなく。ミュータントでも心臓を打ち抜かれたり、頭が吹っ飛べば簡単に死ぬ。ただ、やっかいなのはやはり超能力だ。やる気になれば弾幕だって張れるし、防ぐためのシールドだって出せる。
本当に死んだのか? あいつは俺と同じ第一級指定のミュータントだぞ?
明子が嘘を言っているのではないか? この二年間何度も考えたことだぐるぐると……永遠に答えの出ることのない袋小路にだめだ思考を停止させろ生きていたからなんだというんだ俺には何の関係もないはずだろいやなぜあいつは暴走したんだきっかけは動機は違う生きていたら――。
ありえない……俺はこの目で見たではないか。頭を打ち抜かれて倒れていく姉の姿を。
そして、姉の体には――――。
何かが冥星の体に触れた。それは生暖かい温もりを放っている。しばらくすると体は落ち着きを取り戻し今までざわついていた心は嘘のように平穏を保っていた。
「だ……大丈夫ですか?」
「…………ああ」
ここで皮肉の一つでも言えればいつもの冥星でいられるのだが、それができるほど今の彼には余裕がなかった。エリザが冥星の手に触れているのだ。ただ触れているだけだったが、冥星はその手を強く掴む。最初こそ驚いたエリザだが、冥星の好きにさせた。
「す、すごい汗です……何か、飲み物でも持ってきましょうか?」
「いい……それよりもその手を離すな。絶対だぞ」
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