私のご主人様
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くらい微動だにしないのだ。
「ほんと……わけのわからない人です」
エリザはため息をついた。諦めと呆れが入り混じった深い吐息だ。それが終わるとエリザ急におかしくなって笑った。笑うとまた冥星が怒るから静かに笑うことにした。
凶器のように鋭くて、
空気のように捉えどころがなく、
太陽のように暖かい。
今夜は多分いい夢を見ることだろう。エリザは自分の場所に戻り布団に身を包む。最初は男と同じ部屋で寝るなど絶対にできないと思った。だが、冥星という少年に対しては他の者に感じる恐怖心がなぜか抱けない。
家族――――
エリザは明子が言った言葉を反芻する。
自分は家族に成りつつあるのだろうか。
ならば、この少年が弟……?
いや、自分は奴隷として少年に拾われたのだ。そんなことを思うのはおこがましい話だ。
明日からまた一日が始まる。
明日が待ち遠しいと感じつつあることをエリザは驚くと共に感謝しながら眠りにつくのだった。
ああ、夜は嫌いだ。
違う。冥星は夜が好きだ。森で囲まれた大きな屋敷。夜通し開かれるパーティ。甘美な音楽が響く中、テーブルには豪華な食事。
これは夢だとわかっていた。自分は既に堕ちた身であることも理解している。その屋敷が廃墟と化したことも、美しい音楽が騒音に変わったことも、豪華な食事にありつくことが難しいことも。
「踊りましょ」
手を繋がれていた。白く透き通るような肌。自分と同じ色をした髪。真紅のドレス。背丈は頭一つ分くらい女の方が高かった。
「踊りましょ、さぁ」
いや、自分は食事に集中したいからと手を振りほどく。そうすると女は口元に浮かべていた笑みをスッとなくし己を見つめる。見られているのかはわからない。なにせ、女の顔が映らないからだ。女が何者なのかはわかっている。しかし、その夢にはどうしてか女の顔が映らない。
「どうしてなの」
燃え上がる屋敷。すべてが赤く染まるその中でも真紅のドレスは焼かれもせずひらひらと舞う。火の粉のように、舞う。
足元には手があった。横には足があった。後ろには胴体があった。首が、内臓が、周りに散らばっていた。
その中に見覚えのある顔を見つけた。おそらく父親だ。顔面は破壊され原型をとどめていない。だがそれが父親だと冥星にはわかった。それは家族だからとか絆があるからとか、そういった類の感情ではない。
憎しみだ。ただ、そこには憎悪が籠っていた。それだけでわかる。
「どうしてなの、冥星」
やめろ――といつも叫ぶのだが、全く声が出せない。この女は狂っている。最初から、差後まで狂っていた。生まれた時から――。
女の手が、冥星に伸びる。首筋に白い指先が食い込み、徐々に空気が圧迫される。
女は
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