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心の傷
第一章
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か?」
「それで」
「いいよ」
 閉じ篭ったその声での言葉だった。
「もういいんだ。僕はここから出ないから」
「そうですか。もう」
「これからは」
「僕はここから出るべきじゃない」
 その沈んだ声で言うのだった。
「そして誰にも会うべきじゃないんだ。絶対にね」
 こうして彼は自分の屋敷に閉じ篭り人目を避けるようになった。ただ博物学者として論文や本を発表するだけだった。他には何もしなかった。一族の者にも会おうとはしなくなった。家にいる使用人達とも出来る限り顔を合わせようとしなくなった。それについてもこんなことを言うようになってしまっていた。
「もう人は嫌だ」
 だからだというのだ。
「出来る限り会いたくない。もうね」
「ですが私達は」
「そうです」
 使用人達は困り果てた顔で彼等に返すのだった。
「旦那様に何もしません」
「裏切ることも嘲ることもです」
「それはわかっているよ」
 今彼は自分の部屋の中に一人でいる。そこから扉越しに話をしているのだ。使用人達は廊下から主の話を聞いて言葉を返しているのだ。

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