第一章
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第一章
心の傷
ジョン=オコンネル卿はすっかり自信をなくしてしまっていた。その理由は簡単で失恋したからだ。しかもその失恋の内容が酷いものだった。
「貴方みたいに太っている人は嫌です」
こう相手に忌々しげに言われたのだ。そうしてそれだけではなかった。
「貴方の様な醜い男が彼女に告白を?」
「とんだ身の程知らずですこと」
相手の女友達から散々嘲笑も受けた。
「貴方の様な者ははいつくばっているのが相応しいというのに」
「貴族であっても」
確かに彼は貴族だ。だがそれでもだというのだ。
「貴方の様に醜い無様な者は」
「恋なぞしてはなりませんは」
「そんな・・・・・・」
そこまで言われて傷つかない筈がなかった。しかも彼は確かに外見はお世辞にもいいとは言えない。太ってもいる。だがその心は人のものだった。傷つきやすい人のものだったのだ。
相手やその女友達にはそれからもことあるごとに言われた。ある時は教会から出る時にだ。その女友達の一人に教会の階段の上から言われた。
「よく教会に来られましたわね、そんな無様な姿で」
「全くですわ」
「醜い者は教会に来るものではありませんわ」
「神の御前には」
周りも言う。そんな有様だった。
道を歩ければわざとその行く先に集まってみせて陰口を言われた。自分の耳に入るようにだ。男友達も皆縁を切り自分を攻撃するようになった。誰もが彼を馬鹿にしせせら笑った。彼は完全に孤立してしまった。
「もういいんだ」
彼は遂に自分の屋敷に閉じこもるようになった。
「僕は誰かを好きになったらいけないんだ」
「あの、旦那様」
「それは」
家の者達はそんな主を慰めようとする。しかしだった。
「いや、いいんだよ」
「いいといいますと」
「どうされますか?」
「もう何処にも出ない」
そうするというのだ。
「誰も愛さないよ。どうせ家には誰も来ないんだし」
「誰もですか」
「確かに。今は」
来客は元々少なかった。彼は人付き合いが苦手で僅かな友人達がいたのだ。だがその彼等も彼の苦境を見捨てて去り今では逆に彼をせせら笑いあることないことをあちこちで言うようになっている。このこともまた彼の心を傷つけていた、
「誰も来られないようになりました」
「では」
「仕事はするよ」
彼は博物学者でもある。その筋では知られた者なのだ。
「それに領地からの収入もあるし。株もある」
「お金の心配はない」
「そういうことですか」
「そうだよ」
まさにその通りだった。彼の家は裕福であり経済的な心配はなかったのだ。それがまた彼を閉じ篭らせる要因となってしまうのだった。
「君達への給与の心配もしなくていいから」
「しかし旦那様はいいのです
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