第二章
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第二章
「だが。それで生きよう」
「そうして貰えるか」
「そうだ、それでだ」
男の声が強くなった。そうしてだ。
「そなたは今から戻るがいい」
この言葉と共にだった。十郎の視界が変わった。三途の川から消えてだ。あの屋島の海岸に出た。そこにいるのはもう誰もいなかった。
「源氏の者も去ったか」
彼はそれを見て言った。
「そうか、そして」
己の左手を見る。やはりそこは動かない。血の気もなく青い。まさに死人の身体だった。
その身体で外から出てそうして仏門に入った。十郎は比叡山に入りその名を海洸とした。その名になり山で修業に入ったのである。
他の僧達の間ではだ。彼は寡黙で真面目な人物として知られた。朝も昼も夜も読経を読み仏像の前にいた。そうした人物であった。いつも顔に頭巾を被ってだ。そうして一人修業に明け暮れていた。
「何か凄い人だよな」
「ああ、一人でひたすら修業されてな」
「確か前は武士だったんだろう?」
このことも話された。
「平家のな」
「そうだったんだろう?屋島の戦で生き残ってここに来たのか」
「成程な」
「しかしな」
ここで僧の一人が言った。
「何であんなに一人で必死に修業するんだ?」
「そうだよな。何かあったのか?」
「戦が嫌になったのかね」
「そうじゃないのか?ほら、武士の人ってそうじゃないか」
ここで武士について話された。
「戦の無常さを感じてそれで仏門に入る人が多いじゃないか」
「ああ、それな」
「多いよな、確かに」
「そうだよな」
しかもだった。
「ここにはこういう人も多いし」
「そうそう」
「それでかな、やっぱり」
「きっとそうだろ」
「それにあの頭巾」
そのいつも被っている頭巾のことも話した。
「あれはどうしてかな」
「刀傷か?」
「それじゃないのか?」
戦ではつきものである。僧達はそれではないかと考えた。
「それを隠してじゃないのか?」
「色々と事情のある人なんだな」
「みたいだな」
彼についてこう話されていく。そしてそれを聞いてだ。比叡山の中でも高僧として知られている示現がやって来てだ。そのうえで彼に問うたのだ。
「少し聞きたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
場所は彼がいつもいるその堂に来てだ。堂の中は静かであり質素なものである。阿弥陀如来の仏像があり他には何もない。そうした場所である。そうして彼に問うてきたのである。
「貴方は武士でしたね」
「はい」
その問いに静かに頷く。
「その通りです」
「そうですね。それではでしょうか」
「それではとは?」
「戦に無常を感じてそれでここに来られたのでしょうか」
このことを問うのである。
「それでなのでしょうか」
「いえ、それは違います」
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