第百六十三話 紀伊での戦その一
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第百六十三話 紀伊での戦
顕如は雑賀からの話を聞いてもだった、どうしてもわからず側近達下間家の者達が多くいる彼等に言うのだった。
「紀伊でも出たがのう」
「闇の服の者達ですな」
「武具がやけにいい」
「全く以てわからぬ」
いぶかしむ声での言葉だった。
「何度考えてもな」
「そうした者達がいるか」
「そのことがですな」
「法主様もですか」
「あの者達のことは」
「親鸞上人の頃から聞いたことがない」
こうまで言うのだった、一向宗即ち浄土真宗を開いた親鸞の頃からとまで。
「闇の旗の門徒なぞはな」
「我等の色は灰です」
側近の一人が言った。
「このことは新欄上人の頃より変わらぬことです」
「民の色じゃな」
悪人正機でもある、民百姓は善行を目指す白とどうしても犯してしまう悪行の黒が混ざっている、それで灰なのだ。
「まさに」
「それで闇とは」
「民は闇ではない」
顕如はその目を鋭くさせて言い切った。
「決してな」
「左様です、しかしです」
「この戦は闇の者達ばかりが戦っておる」
「織田家と」
「おかしなことじゃ。確かに織田信長は恐るべき者」
顕如はまだそう見ていた、信長のことは。
「仏敵じゃ」
「まさにですな」
「織田信長はそうですな」
「そうした者ですな」
「そうじゃ、そもそもあの者は神主の家の者」
仏教とは関わりが薄いというのだ、元々。
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「仏門の者ではありません」
「元々が」
「領地の中の寺でも歯向かわぬなら何もせぬが」
それでもだというのだ。
「延暦寺にも強く出た」
「そして高野山にもですな」
「あの寺にも」
「そこまでした者はかつておらぬ」
顕如は言い切った。
「あの者だけじゃ」
「まさにですな」
「織田信長だけですな」
「それ故に拙僧は言うのじゃ」
信長を仏敵と呼ぶというのだ。
「あの者はそうした者じゃ、魔王じゃ」
「蛟龍でなくですか」
「それになると」
「そうじゃ、第六天魔王じゃ」
顕如は信長を忌々しげに言い捨てた。
「だから確かに闇の者とはいえ」
「それでも門徒達を多く殺したと」
「容赦なく」
「それは魔王の所業じゃ」
まさにだというのだ。
「だからこそじゃ」
「織田信長はですか」
「何としても」
「倒さねばならぬ、民の為にも天下の為にも」
必ず、というのだ。
「石山御坊がある限り戦うぞ」
「それで法主様」
ここでだ、側近の一人が顕如に言ってきた。
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