第四章
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第四章
「それもまたか」
「そうだ、それならだ」
「それなら?」
「二人で残った方がずっといいさ」
笑ってクイークェグに話した。
「だからな。その話はなしにしよう」
「しかしこのまま二人でいればだ」
「いればか」
「二人共終わりだぞ」
イシュメールの目を見ての言葉だ。
「それでもいいのか」
「その時はその時さ。じゃあ俺が出ようか」
「それは駄目だ」
クイークェグはイシュメールのその言葉をすぐに尽き返した。
「絶対にだ。それは駄目だ」
「そうだな。駄目だな」
「俺もそういうことは嫌いだ」
イシュメールにまた言った。
「それは絶対にするな」
「それなら二人で残ればいいさ。死ねば諸共だ」
「それでいいか」
「いい。二人でいようぜ」
「わかった。ならそうする」
クイークェグもそれに頷いてだ。そうしてだった。
彼は落ち着いた顔になってそのうえで海に手をすぐに入れて。猫が魚を獲るようにしてだ。イシュメールに対して差し出してきた。
「捌いてくれ」
「わかった。じゃあ食うか」
「そうしよう」
こうして二人はどちらも残ることになった。その今にも沈みそうな小舟の中で、である。二人はそのまま二日一緒にいた。するとだった。
近くに船が来た。かなり大きな船だ。しかも二人の方に来ていた。
「助かったか」
「そうだな」
クイークェグは微笑むイシュメールに無表情なまま返した。
「運がよかった」
「運かね」
しかしここでイシュメールは言うのだった。
「本当に運かね」
「運ではないというのか」
「俺達がどっちかを見捨てていたらな」
「その時はか」
「助けも来なかったんじゃないのか」
こうクイークェグに言うのである。
「その時はだ。死んでいたか」
「どっちもな。神様ってのは見ているからな」
「見ているか」
「俺達があの時。どっちかを犠牲にしていたら」
「そうか。今こうして二人は助からなかったか」
「そもそも二日も魚とか手に入らなかっただろ」
「そうだな」
クイークェグは食べ物の話をされるとわかった。それでだ。
「それは確かだな」
「そういうことだ。これでわかったな」
「ああ、わかった」
それでわかった彼だった。頷きもする。
「そう言われるとな」
「さあ、本当に助けが来るぜ」
その船から小舟が下りてきた。そうしてだった。
二人は助け出されそれまで二人がいた小舟は沈んでいく。イシュメールは船の上からその沈んでいく小舟を見ながらクイークェグに言った。
「ぎりぎりだったな」
「そうだな。本当にあと僅かだった」
「やっぱり神様は見てるんだよ」
彼はまた言った。
「他人を見捨てる奴は助かりはしないんだよ」
「そういうことか」
「俺はそう思うぜ
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