第三章
[8]前話 [2]次話
第三章
「わかるな」
「鮫か」
「どうやら小舟のことを察して来たな」
「沈んだところでか」
「しかも一匹だけではない」
クイークェグの言葉は続く。
「鮫は一匹では来ない」
「そうだな。何匹も来るな」
「そうだ」
イシュメールもクイークェグもそれはよく知っていた。船乗りをしていれば嫌でも鮫のことは知る。その動きもよくである。
「すぐにな」
「この小舟もいよいよ危ないか」
「そういうことだ。どうする?」
そしてだ。クイークェグはイシュメールに顔を向けてだ。そのうえで問うてきた。
「これからだが。どうする?」
「どうする?何をだ?」
「今俺達はこの小舟に二人でいる」
「ああ」
「小舟が危ないのは二人でいる重さからかも知れない」
このことを言うのだった。
「そしてだ。それで一人いなくなればどうなるか」
「軽くなって小舟の負担が減ってか」
「そうだ。少しでも長生きできる」
こうイシュメールに言うのだった。
「どうだ、それは」
「俺が死ぬか御前が死ぬかか」
「俺が行こう」
クイークェグは自分から言ってきた。
「一人でいればだ。それだけだ」
「一人ならか」
「そうだ、一人か」
イシュメールはここまで聞いてだ。彼も考える顔になった。そうしてそのうえでそのクイークェグに対して言葉を返して言ってきたのだった。
「一人なら舟がもつか」
「二人でいるよりは遥かにな」
「そしてそれだけ救援が来てくれるまでもつ可能性もある」
「そうだ。どうだ」
またイシュメールに言ってきた。
「それはどうだ」
「御前の考えは聞いたさ」
イシュメールはまず彼にこう返した。
「考えはな」
「ではそれではな。俺は」
「いや、待て」
「待てというのか」
「それ位なら俺が飛び込むさ」
「そう言うのか」
「俺はそういうのが嫌いなんだよ」
彼は微笑んでだ。そのうえでクイークェグに言葉を返したのだった。
そしてだ。彼はまた言った。
「人を犠牲にして自分が生き残るのはな」
「嫌いか」
「それにだ。俺だけでどうして魚を手に入れたりするんだ?」
「御前も釣りができる」
「俺のなんか全然釣れないさ。御前が殆ど獲ってるだろ」
「そういえばそうか」
イシュメールのその言葉に頷くクイークェグだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ