閑話 賢い息子
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て、親を納得させようとはな」
ロイドは息を吐き、そして小さく笑った。
「わかった。行ってくるといい――だが、アレス。死ぬな。私も、そしてきっと母さんもお前を待っている」
「自殺志願者ではないつもりだよ」
アレスもまた小さく笑って、しっかりと頷いた。
+ + +
片田舎の小さな喫茶店。
時代を無視するようにシンプルな内装に、何十年のミュージック。
片隅におかれた古ぼけた液晶モニターがニュースを映し出している。
そんな片隅で、ロイド・マクワイルドは二人の女性を正面にしていた。
片や間もなく十歳に満たぬ少女であり、もう一方はウェーブのかかった髪の女性。
離婚後の定期的な娘との面会の時間。
だが、その雰囲気はとても離婚したとは思えず、暖かな家族の空間であった。
誰が見ても仲良い親子の団欒に見えただろう。
娘は楽しげに学校の様子を語り、母親はロイドの近況を尋ねる。
笑いがあり、会話が弾み、注文したアイスコーヒーの氷が溶けた。
カランと小さな音が鳴って、気付けば時間は二時間を超えている。
店員を呼び、追加の注文をすれば、一瞬の静かな時間が流れる。
追加注文が来る間に、手持無沙汰となってアイスコーヒーをストローでかき始めた母親――エレン・マクワイルドは小さく視線を娘に向けた。
はしゃぎ過ぎたのか、小さく寝息をたて始めている。
そんな様子に穏やかに笑んで、視線をロイドへと向けた。
戸惑っているような、迷っているような。
そんな雰囲気を察して、ロイドは先に口を開いた。
「アレスは元気だよ」
その言葉に、エレンは明らかにほっとしたようだった。
息を吐いて、そうと小さく嬉しげに呟く。
「あの子は恨んでいるでしょうね」
「まさか。君もあいつの事は良く知っているだろう。あの時に祖母の家に行くことに賛成したのは、誰よりもあいつだった」
「ええ、そうね。あの子は賢かった――だから」
ストローを回す手を止めて、エレンは悲しげに唇を噛んだ。
「私は、恐かった」
「すまなかった」
「謝るのは私の方よ。耐えられなかった、私が弱かったの」
「違う、それは」
「違わないわ」
ロイドの言葉は、悲鳴に似たエレンの言葉にかき消された。
唇を噛んで、そして気付いたように娘を見る。
一瞬の身じろぎを見せて、すぐに娘――マウア・ローマンは再び寝息をたて始めた。
「たまにね。この子寝言でお兄ちゃんっていうのよ。覚えているわけないのにね」
「懐いていたからな」
「ええ、あなたより子供の扱いが上手かったわね。あの時は、この子まで奪われる気がした。そんな事ないのにね」
エレンが苦笑を見せれば、追加のコーヒーが届いた。
シロップを入れて、
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