閑話 賢い息子
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もっと妻の言葉を聞いておけば。
+ + +
「士官学校?」
「ああ、士官学校に合格したよ。四月からは寮生活になる」
確定したと言わんばかりの息子の言葉に、ロイドは耳を疑った。
確かに士官学校を受験すると言う話は聞いていた。
だが、成績で言うならば士官学校に行かずとも同盟有数の高等学校に進級できる。
その後、国立自治大学などの大学に進める。
少し考えて、ロイドはアレスを見つめた。
「私の事は気にしなくてもいいぞ」
全寮制、それも士官学校にもなれば、こちらに帰ってくることは少ない。
そして、卒業すれば士官として各地に飛んでいく。
いわば、齢十五にして自立する道。
それを相談もせずに決定した事は面白くないが、何よりも自分と母の事を考えている。
彼がいなければ、再び妻とも近づけると。
気付かないほどに、耄碌しているわけでもない。
真っ直ぐと息子を見て、ロイドは言葉を飲み込んだ。
いま反対の言葉を口にしたところで、アレスが入学を取りやめることはない。
金を出さないと言ったところで、給料が支給される士官学校では何ら意味のないこと。
だから、ロイドはアレスに問いかけた。
「なぜ生き急ぐ?」
言葉に対して、アレスは少し驚いたように片眉をあげた。
しばらく迷い、自問するように首を振れば、
「さあ、わからない」
「入学するのにか?」
「ああ」
頷いて苦笑を一つすれば、アレスはその足で台所からオレンジジュースを取り出した。
グラスに注ぎながら、言葉を探す。
「なぜ死地に向かうのか、ましてや負け戦にね」
「負けるか」
注ぎ終えたグラスを手にして、何事もないような言葉にロイドは顔をしかめた。
ロイドは軍属ではなく、ただの同盟市民だ。
簡単に負けるという言葉は信じられず、もし息子以外が口にしたのならば鼻で笑っただろう。テレビのニュースは互角の戦況を伝えており、帝国を打倒する事が同盟市民の夢だ。
だが、ロイドは息子の言葉を信じられた。
顔をしかめて、
「ならば、そんな場所になおさら息子を送りたくはないな」
「だろうね。でも、俺は行きたいと思っている」
「なぜだ」
「理由を探すなら、父さんや母さん、それにマウアを守りたいからかな」
「アレスが行くことで、負ける事がなくなるのか」
「そこまで自信過剰ではないけどね。ただ行動しているという自己満足は得られる」
「そのためだけに?」
「表向きはね」
呟いてジュースを飲み干す様子に、ロイドは目を丸くする。
「正直なところは、その理由がなくても、きっと士官学校には行っていたと思う」
「なぜ。いや、その理由が……わからないか」
「言葉が見つからなくてね」
「理由がなく
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