第126話 宴 前編
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正宗は鮮卑族との宴の前に麗羽の元を訪ねることにした。彼女達のために用意した離れに向う際に通る回廊から除く景色は彼の心中とは裏腹に晴れ渡っていた。
「正宗様」
正宗が麗羽の元を訪ねようと通路を歩いていると彼を呼び止める者がいた。彼が声のする方を向くと揚羽がいて、こちらに歩み寄ってきた。
「揚羽か」
正宗は揚羽に答えるが表情は暗い。以前から彼は何進の死を傍観すると決めていた。しかし、実際にことが起きた今、麗羽にどう接すればいいか苦悩していた。
「何進様の死は不幸な事故。正宗様がお知りになる歴史には『何進様の死』は記録されていなかったのです」
揚羽は正宗に対して教師が生徒に模範解答を教えるように言った。彼女の表情は毅然としたものだった。彼女も何進の死に対して思うところはあるのかもしれないが、それを正宗の前で出しては彼を悩ませてしまうと思っているのかもしれない。
「不幸な事故。そうだな」
正宗は噛み締めるように言った。そして、彼は揚羽の顔を見て真面目な表情で彼女を心配させないように頷いた。彼は踵を返し目的の場所へと向おうとするが立ち止まり揚羽に向き直った。
「揚羽、難楼を宴の席に呼んでやれ」
「鮮卑族への対面のために烏桓族に華を持たせると?」
「他意はない。難楼も軟禁生活で息が詰まるだろうと思っただけだ」
「わかりました。仰せのままにいたします」
揚羽は正宗を凝視して黙考した後、口を開いた。
「頼む」
正宗は踵を返し今度こそ麗羽の元に向った。
正宗は麗羽へ宛てがわれた部屋の前まで来ると逡巡した。
「麗羽、入ってもいいか?」
幾度か深呼吸をして心身を落ち着かせると意を決して麗羽に声をかけた。
「正宗様?」
少し間を置いて麗羽の声が扉の向こうから聞こえた。その声は弱々しい声音だった。その声音を聞いた正宗は麗羽のことを心配した。
「ああ。正宗だ。少し話がしたい。入ってもいいか?」
正宗は麗羽を気遣うように優しい声音で言った。
「どうぞ」
麗羽の許可を得た正宗は扉を開いて中に入った。麗羽は部屋の中央にある寝所に腰を掛け力なく佇んでいた。清楚な寝間着を着替えた彼女はいつもと雰囲気が違っていたが、その美しさは劣ることはなかった。ただ、正宗は彼女の表情が生気を失い儚げなものだったことが気になった。彼は事前の報告で彼女は援軍到着後、自らも董卓軍と矛を交えたほど勇猛果敢に戦ったと聞き及んでいたからだ。
正宗は麗羽の元に近づくと彼女の隣に腰をかけ彼女を自らの側に引き寄せ優しく抱きしめた。麗羽も正宗の行為に促されるまま、正宗の抱擁に身を任せていた。そして、彼女は彼の胸に顔を埋めた。数刻の間、正宗
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