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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十六話 運命の一夜を待ちながら
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皇紀五百六十八年 七月十八日 午後第四刻 集成第三軍司令部前
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久中佐


さて、この頃に語られる馬堂豊久の軍人としての評価は毀誉褒貶入り混じっていた――とりわけ北領での焦土作戦と“北領の英雄”の称号がそれを煽っていた――が、概ね共通しているところとして、理論によった指揮官である、といったところである。
事実として軍歴は秀才幕僚のそれであったし。皇紀五百六十八年当時の剣虎兵の運用や導術の軍事利用に関する理論は馬堂豊久の報告書・論文が多大な影響を及ぼしたことは誰もが認めざるを得なかった。
故に<皇国>軍事情に明るい人間であればあるほど彼の事を秀才参謀・軍官僚としての道を歩みながらも最前線で起きた大敗から事故的に指揮官への道を歩んだ男である、と認識するのである。
それは決して的外れなものではなく、実際に官吏としての能力は高い方であった。
だが人間とはいくつもの面を持つ物である、馬堂豊久という人間のまた別の一面として彼は自身の直観を強く信じている一面があった。 
豊久は直感というものは無意識の記憶を利用した経験則であると信じており、前世(?)の 記憶を持っている分、経験則に依拠する直観が利くのは当然であるとこれまた小理屈を捏ねて自身のそれを信用していたのである。
「非常に厭な予感がする――それも凄まじく」
 そう云いながらついた溜息は酷く重い。集成第三軍司令官である西津中将は再び彼――馬堂豊久を召喚したのである。
 ――どうも天狼からこっち厭な予感ばかりだ。あぁ畜生、どうしてこう俺は職務熱心にならなきゃ死ぬところにばかり放り込まれるんだ。
「――まぁ剣虎兵部隊の指揮官が二人揃った時点で結論は分かっていますよ」
 佐脇大隊長も苦笑して云った。独立捜索剣虎兵第十一大隊長殿までも集成第三軍司令官閣下に召喚されていたのだから何を言われるのかはわかりきっている。
「龍兵が随分とやってくれましたしね。まったく・・・あぁもやってくれるとは」
 ――砲兵部隊の再編を行っている合間に剣虎兵の夜襲により防衛線を寸断するつもりなのだろう。まぁ、それは良い、俺が指揮を執らないのならば尚更良いのだけれどさ。もう今日は給金分以上に働いた筈だもの。
 再び溜息をつき、豊久は自嘲の笑みを浮かべる。
互角の敵を相手に罠にはめて大勝を得る、将校ならば誰もが一度は夢見るであろう、それは脳髄が痺れる程の焦燥と恐怖に見た一時と、それらからの解放により、勝利に縁をもたず、敗残を重ねて死屍を累々と積み上げてきた青年中佐が喰らうには過ぎた馳走であった。
 ――こんなことで気を抜いてどうするんだ、莫迦め。
「勝利を得るための選択としては――これしかないでしょう」
 佐脇の言葉に豊久も頷く。
「えぇ、火力の補充が困難である以上は――こう
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