心の強さ
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ば電話がかかってきても留守番電話サービスに送られるしね」
明日奈が意外と黒い。
こうして長時間一緒にいることは少なかったから今まで気づかなかった。
「さてと……ユウキ。道案内を頼む」
「うん、わかった」
メールを打ち終わった明日奈を連れてユウキのナビゲートの元、時折ユウキの漏らす郷愁帯びた声を聞きながら明日奈も俺も、そしてユイも無言で知らない街を練り歩く。
やがて一軒の家の前にたどり着いた。
白いタイル張りの壁があり、緑色の屋根。そして庭が他の家よりも広いという特徴があった。
しかし、現在の庭は荒れており、窓は雨戸が閉まっていて生活感がない。時刻的に、あたりの家には明かりが煌々と点っていたが、この家は寒々しく暗いままだった。
そして、青銅製であろう門扉は人を拒絶するかのように重々しく鎮座している。
「……もしかして……ユウキの……」
「うん……そうだよ。ここがボクの家。……ううん、ボクは戸籍上、死んじゃってるから正確に言えば元ボクの家だね」
そう言うユウキの声には懐かしさと共に寂しさが篭っていた。
「……」
俺も明日奈も黙り込んでしまう。かける言葉が見当たらなかったのもそうだが、ユウキの様子が生半可な言葉を拒絶しているように覚えたからだ。
陽が沈みかけ、冷たさをました風が冬の残り香を巻き上げ、人の少なくなった道を吹き抜けて行く。まるで寂しいユウキの心中を暗示するかのように。
「……あ、ごめんごめん。黙り込んじゃった。もういいよ。連れてきてくれてありがとね!」
しばらく無言で黄昏に沈み行く家を見つめていたユウキは、寂しさを振り払うかのように明るい声を出した。
しかし、その声は俺にはただの空元気に聞こえる。
「まだ……大丈夫だよ」
俺が感じたユウキの空元気を明日奈も感じていたらしく、俺の腕を引くとユウキの家の近くにある公園に移動し、その公園を囲う生垣の石製の基部に腰掛けた。
逆らう理由もなかったので俺は明日奈の隣に腰を下ろす。この場所ならばユウキの家がよく見えた。
少々の沈黙の後、ユウキはあの家の思い出を語りだす。
「あの家に住んでたのは一年くらいだったんだけどね。あの頃はお姉ちゃんもいてね。何にも考えないで庭を走り回って遊んで……楽しかったよ。あの日々の一日一日が今でも鮮明に思い出せるくらい……。本当に……幸せだった……」
思いを吐き出すように出たその言葉はとても重い質量を持っていた。
普通の家庭に生まれ、普通に育つはずだった少女は一つの運命の歯車の狂いによって普通の幸せを奪われたのだ。
もしユウキ姉妹が双子でなければ、もし出産の際の輸血の必要がなかったら、もしその際に使われた血液製剤がAIDSウイルスに感
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