第六章
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第六章
「ですから。もう後は」
「わかりました。では」
「そういうことで」
これで話を済ませるのだった。程なくして業者が来て場を済ませていく。少なくともこれで病院での話が終わった。だがこれで話は終わりではなかった。三人は病院を出てその駐車場で足を止めた。上を見上げるとそこには青い空が広がっている。何処までも続いて遥か上まで突き抜けるような澄んだ青だった。
「晴れているね」
「そうね」
小夜が市五郎の今の言葉に頷く。三人は三人共その空を見上げているのだった。そしてその空にある同じものを見ているのである。
「奇麗な空ね」
「あそこにいるんだ」
白峰がここで言った。
「あいつはな」
「そうだね。今は」
「そして今度は」
市五郎の言葉に応えるようにしてまた言ってきた。
「あそこにいる」
「観客席に」
「そうだ。市五郎」
上を見上げながら市五郎に声をかけてきた。
「わかっているな」
「勿論だよ。一週間後だよね」
「そうだ、一週間後だ」
時間のことを彼に話した。
「一週間後だ。わかっているな」
「うん。今日から稽古は最後の仕上げだよ」
「この一週間で全てが整う」
最後の最後まで稽古に気を抜くな、彼がいつも息子に対して言っていることである。今もそのことを彼に告げているのである。
「全てがな」
「帰ったらまずは」
「忙しくとも稽古をする時間はあるぞ」
「わかってるよ。舞いの稽古は何時でも何処でもできる」
「その通りだ」
厳格な言葉になっていた。
「それではな。家に帰れば」
「時間のある限り稽古をするわ」
「わかってるよ」
上を見上げたまま父の言葉に頷くのだった。首を動かしはしていない。声だけで頷いていた。目はずっとその青い空を見ていた。
「一週間後の為にね」
「母さん」
白峰は今度は自分の妻に声をかけた。
「後はいつも通りだ」
「わかっているわ」
夫の言葉に静かに応える小夜だった。
「それはね」
「済まんな」
ふとここで謝罪の言葉を述べてきた。
「いつもな。特に今度はな」
「いいわ」
夫のその言葉を受けての返事だった。
「それが。妻としての役目だから」
「そうか」
「そして母親としての役目」
微笑んでいる。上を見上げて。だがそこで一条。
目から一条熱い糸が流れるのだった。微笑みながら。ただ一条の熱い糸が流れた。上を見上げたままの顔から。その整った横顔を通って音もなく消えていった。
「わかっているから」
「・・・・・・わかった」
白峰はそれ以上は何も言わなかった。後は家に帰り稽古や他のことに励んだ。そして一週間後。舞台がはじまった。舞台裏、楽屋では白峰も市五郎もそれぞれ衣装や化粧といった身支度にかかっていた。小夜に助けられつつ
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