第六章
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能面を選んでいる二人のところに。一家と馴染みの年輩の評論家が来たのだった。彼は済まないといった感じで右手を前に出しそのうえで頭を小さく縦に振ってから二人のところに来て。鏡越しに話をはじめた。丁度二人は衣装も化粧も終えて後は能面を着けるだけだった。その中で彼等の邪魔をしないようにあえて二人の横に来て楽屋の鏡を使って話をするのはこの評論家の気遣いであった。
「いよいよ今日ですね」
「はい」
市五郎が彼の言葉に応えた。彼は女の面を選んでいる。それに対して白峰は翁の面だ。どちらも微かに笑っているものであった。
「今日ですが。自信の程は」
「あります」
一言で答えるのだった。
「私は。今回の舞台は」
「今回の舞台は」
「これまでで最高の舞台にしてみせます」
「最高のですか」
「そうです」
穏やかな声だった。
「必ず」
「随分稽古に励んでおられたそうですが」
「ええ」
能面を見つつの言葉だった。こうしたインタビューはどちらもいつものことなので手馴れたものだった。だから両方共変に思うこともなかった。
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