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能面
第五章
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ってるわ」
 何も知らないかのような、あどけない顔で応える佳代子だった。
「またね。待ってるわ」
「ああ、またな」
「それではな」
 こうして三人は佳代子に別れを告げ部屋を後にした。部屋を出るととりわけ母親の小夜が崩れ落ちそうになってしまう。だがそれを白峰と市五郎が支えるのだった。
「母さん、まだな」
「気を確かにね」
「ええ・・・・・・」
 涙を流している。もう耐えられなかったのだ。その彼女を二人で支えたのである。
「そうね。まだ佳代子は」
「また来ようよ」
「明日にでもな」
 市五郎と白峰が彼女に対して声をかける。こう言って彼女を必死に支えるのだった。
 そうして二人で一人を支え病院を後にするのだった。それはこの日だけでなく次の日も、そのまた次の日も同じだった。そして遂に。その日は来たのだった。
「そうですか」
「静かにですか」
「はい、起きていればでした」
 医師が三人に告げていた。その顔は穏やかで彼の側にはベッドが置かれている。
 そのベッドに彼女がいた。微笑むようにしてそこに眠っている。だが目は覚めない。静かにそこに目を閉じている。ただそれだけだった。
「ここに看護士が来た時にはもう」
「苦しまなかったのですね」
「はい」
 医師は市五郎に対して答えた。
「そうです。何も」
「そうですか」
 彼はそれを聞いてまずは安堵した顔を見せた。
「それが。せめて」
「はい。ところで」
 ここで医師は三人に対して告げてきた。
「後のことは」
「わかっています」
 また市五郎が彼に答えた。
「それはもうこちらで」
「左様ですか」
「話はしています」
 こう医師に伝えるのだった。

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