その名が意味するものは
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ぐに血は止まったし問題はないだろう―――――と思っていたのだが。
「よし、これでいいな」
血が滲み始めた傷口に、ぺたりと絆創膏を張る。
持っていたのは救急箱、白い布はガーゼ、瓶の中身は消毒薬だったようだ。
念入りに絆創膏を貼ったザイールは、ふぅ、と小さく息を吐く。
「気を付けろ。こういう傷でも、放っておくと厄介な事になる」
「え?」
一瞬、目の前の青年が何を言っているのか解らなかった。
今、自分が聞き間違えていなければ、こう言ったはずだ―――――気を付けろ、と。
些細な、言った本人はただ自然と出た言葉だったのかもしれない。
だけど、それでも。
「―――――――――――はいっ・・・」
「!?」
ぎょっ、とザイールは目を見開いた。
それもそのはず。突然少女が―――――泣き出したのだから。
「え、あ、い、痛かったか?す、すまん。泣くほど痛かったとは・・・」
その涙を、消毒が痛かったからだと思ったザイールはあたふたと平謝りする。
弱ったな、どうすれば泣き止んでくれるのかさっぱり解らん・・・と頬を掻くザイールに、少女はフルフルと首を横に振った。
「違い、ますっ・・・違うんです・・・嬉しっ・・・嬉しくてっ・・・」
「嬉しい?」
途中でつっかえながら、必死に言葉を紡ぐ。
今度はこくこくと何度も頷き、少女は俯いた。
ザイールの黒いつり気味の目が真っ直ぐに自分を見ている事に気づき、急に泣き顔を晒しているのが恥ずかしくなったのだ。
「私・・・閉じ込められてから、誰にも、心配とかっ・・・された事、なかったのでっ・・・気を付けろと言ってもらえた事が、久しぶりでっ・・・嬉しくて・・・」
傷つくのが当たり前だと言われるのと、同等の扱いをされてきた。
心配された事なんて、遠い過去の記憶を漁らない限り思い出せない。
ただ純粋に、嬉しかったのだ。
誰かが自分の身を案じてくれた事が、何よりも嬉しくて仕方ない。
「いや・・・すまん。特に何かを考えて言った訳ではないんだが」
申し訳なさそうにザイールが頬を掻く。
その言葉に少女はフルフルと首を横に振った。
「誰も私の声なんて聞いてくれなかったから・・・何を言っても、何も返って来なかったからっ・・・ザイール様が何も考えずにしてくれた事が、とても嬉しいんですっ・・・」
静かな空間に、少女の嗚咽だけが響く。
どれだけの時間、そうしていただろうか。
泣くだけ泣いた少女が顔を上げると、そこには泣き出す前と変わらない姿勢―――――胡坐をかいて真っ直ぐにこちらを見つめるザイールがいた。
ふと目線を動かせば、既に時は夕刻。オレンジ色の光が社の薄く開いた扉から零れている。
(私が泣き止むまで、ここに・・・?)
不思議そうに
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