第37局
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対局相手の力ない投了の声に、和谷は右手を握り締め、小さくガッツポーズを決めた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
無事に勝ち星を拾った和谷は、大きく安堵していた。
−何とか連敗は免れたか…。ずるずると負けが込むのだけは避けたかったからな。これで一安心だ。
和谷は、前回の5戦目の対局で、外来の辻岡相手に黒星を喫していた。かなりの強敵だった。院生上位の力があるのは間違いないだろうと思えた。やはり、本戦ともなると、強敵が多かった。
プロ試験序盤での連敗が、後々で辛く響いてくることは、今までの経験から分かっていた。そのため、今日はなんとしても勝ちたかったのだ。
石を片付けた後、対局結果の記入に向かった。勝敗の記録は勝った人間の仕事だった。
−えーと、ここに白星で相手に黒星っと。…6戦終わって、5勝1敗。まずまずかな。他のみんなの結果はと。…塔矢はあっさり6連勝か。やっぱり強いな。伊角さんも6連勝、と。本田さんはまだか。確か今日は本田さん、辻岡となんだよな。
「和谷、私のもつけてくれる」
後ろからの声に振り向くと、笑顔の奈瀬がいた。
「あ、奈瀬も勝ったんだ」
「ええ。なんとかね4目半勝ちね」
「はいはいっと。…奈瀬も、6連勝か。ずいぶん調子いいんだな」
「まあねー。最近絶好調かもねー。このままうまく波に乗れればいいんだけどね。まだまだ強い相手は残ってるからね」
奈瀬の声は明るかった。調子よい出足に、機嫌がいいようだ。
「あ、和谷、俺のもつけてくれ。中押し勝ちな」
「あ、本田君も勝ったんだ。おめでと」
「ありがとよ。…塔矢も奈瀬も伊角さんも勝ちか…」
「本田さんはと、ここか。本田さん、相手の外来どう思った?」
「辻岡さんな。なかなか強かった。和谷を倒しただけはあったな。何とか勝てたってとこだ。ここまでで6連勝は4人か…」
「ああ。塔矢、伊角さん、本田さん、奈瀬の4人が全勝。1敗が俺含めて4人…」
「やっぱり手強い外来は今年もいるわね…。ま、まだ始まったばかりだからねっ。お互いがんばっていきましょ」
3人で話していたところに、同じ院生の真柴が通りかかった。
「お前らは調子よさそうでいいよなぁ…」
「真柴さんはしょっぱなから強い相手ばかりですもんね」
真柴の言葉には力がない。和谷の言葉にも、元気なく頷いた。
「ホントだぜ。緒戦が噂の塔矢アキラで粘ったものの結局負け。2戦目が絶好調の奈瀬で見事につぶされて連敗スタートだぜ。ほんと、出だしから最悪って感じ。そこから何とか踏ん張って2連勝して星を五分に戻したと思ったら、5戦目が院生トップの伊角さんだぜ。それでやっぱり負けるし…。今日は何とか勝てたけどさぁ、6戦3勝3敗
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