日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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んらしい」
「いいんです。ゆっくり進んで行きましょう」
彼の声は昔のまま。民に接する様子も、子供達と遊ぶ姿も、全てが戦の無い時に行っていたモノと同じであった。
相違点は無く、月は『彼』の隣にいるようで心が暖かくなってしまう。同時に、自身の愚かしさに罪悪感が来る。
ただ、渦巻く心とは別に、月は一つの事柄に納得していた。
――秋斗さんは多分、戦場に立たないと戻らない。誰かの命を奪って、一番背負ってて重たかったモノを感じないとダメなんだ。
そこでまた一つ、気持ちが沈んで行く。
雛里の予想通り、秋斗は月と詠に会って直ぐ、自分がどんな人間であったのかを聞いていた。
二人は始めに嘗ての自分を演じようとしないようにと強く言い聞かせてから、彼女達が見てきた黒麒麟の事を語った。
徐晃隊の生き様も死に様も、いつも何を目指していたのかも、壊れた状況も……華琳と同じモノを掲げていたのに桃香に従っていた矛盾も。
鳳凰の事は最低限に抑えた。いや、雛里の想いを勝手に伝える事が出来なかった、というのが正しい。だから、自分達と同じように黒麒麟を支える子だった、とだけ伝えた。
全てを聞き終わった秋斗は大きくため息を吐き、自分は切羽詰っていたんだろうなと返していた。瞳に怯えの色を大きく映し出して。
嘗ての自分に恐れを抱いているのは二人にも透けて見えた。どれだけ異質で、どれだけ異常な『最効率の戦場を作る化け物』となってきたか、そしてどれだけの人を諦観してきたのか……それを理解する事は初めから隣で見てきた雛里と副長にしか出来ない。
秋斗が次に呟いたのは、自分は人を殺すのが怖い、だった。正直に吐露された本心に、月も詠も、目の前の存在がどうやってあの化け物になったのか予想もつかなかった。
そのまま、過去の話は月と詠が仕事の為に無くなり、秋斗も他には何も聞こうとはしなかった。
今、月の心は揺れていた。雛里の気持ちが少し分かった為に。
禁忌の行いに怯える秋斗は、華琳の元にいる限り人殺しを行わなければならない。民からの期待と所属する兵達からの期待に応え、そして華琳への借りを返す為には乱世を駆けなければならない。
黒麒麟の本当の姿は今の秋斗。人を殺すのが怖くて、戦なんかしたくなくて、子供達と遊んでいる方が性に合っている。月の目にはそう映っていた。
そのまま思考に潜り、彼がこれからどうなっていくのかと考えていると、
「ゆえゆえは――って大丈夫か?」
「へぅっ!」
急に声を掛けられ、自分の子供っぽい口癖が出てしまった月は思わず顔を赤らめた。
「おっと……急に話しかけてごめんな」
「いえ、ぼーっとしていた私が悪いので……それと、やはり真名で呼んでくれませんか? 違和感が――」
「ごめん。例え今の君が真名し
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