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乱世の確率事象改変
日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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自分が隣に居たのではないのかと。
 気を失う直前の言葉は雛里への謝罪だけ。深く自分を責めていたのは雛里の為だけ。全ての想いは雛里の為だけ。
 だから……月は初めての感情が溢れ出していた。彼女が、既に王では無く、一人の少女になってしまったが故に。
 雛里は月の瞳をじっと見据えて、綺麗な笑顔で笑った。

「ふふ、あの人はこの軍だと真月になるよ。日輪が地に落ちかけた時に優しく大陸を照らす人になる。その隣は、その真名を持つ月ちゃんが相応しいんだよ。じゃあ、行ってくるね」

 寝台から立ち上がった雛里はゆっくりと歩みを進めて行く。小さな背はさらに小さく見えて、肩がかすかに震えていた。
 堪らず、月は声を張り上げた。

「雛里ちゃんっ! 絶対、あの人を戻してみせるからっ! だから諦めないで!」

 振り向くことも無く、扉を開けて静かに出て行った雛里の瞳からは涙が落ちていた。
 静寂の中、月は涙を零した。自分が余りに無力過ぎて、自分が余りに欲深すぎて。
 ふるふると頭を振って、彼女は心を固めて行った。

――彼の隣にいるべきなのは私じゃない。雛里ちゃんじゃないとダメ。私は二人共好きだから、二人に幸せになって欲しい。

 いつものように、自分は誰かの為でありたいと願った。誰かを救いたいと願った。自分の欲よりも誰かの幸せを願った。
 鳳凰を優しい少女に戻す為に、夜天に浮かぶ月の真名を持つ彼女は、黒麒麟を呼び戻す事に自分の全てを賭けようと誓った。



 †



 現在、曹操軍は両袁家との戦が終わり、徐州の掌握に動いていた。
 勝利報告が本城に着いたのは二日前。華琳は徐州の掌握の為に少しばかり居残りを選択した、とのこと。
 早期決着が予想されていたのだが、孫策軍が思う様に動かなかったことと、袁家による秘策によって劉表軍と黒山賊が同時に攻め入ってきた事で時期が遅れていた。
 本城にいる程c――風の判断によって秋蘭と流琉が劉表軍に、真桜と詠が黒山賊討伐へと動き、本隊から凪と沙和が救援に駆けつけてどうにか跳ね返せたのが現状。彼女達は警戒の為に国境付近に駐屯済みである。
 ちなみに、詠は今後の為、袁家を乱世から退場させた時は正式に華琳の部下となる事が決まっている。名も改めるのだが、それはまだであった。月は彼の側に少しでもいる為に侍女のままを選んでいる。
 そんな中、秋斗は風に促されて毎日警邏へと向かっていた。
 民心の安定と大陸全土への情報操作。雛里が風に書簡を送って噂を流させ、それを確実なモノとする為の行動だった。
 ちらりと隣の彼を見やる月の瞳は悲しみの色。それを受けて、秋斗はふるふると首を振った。

「ごめんな、毎日付き合わせて。俺が前にしてきた事をなぞれば記憶が戻るかも、と思ってたけど……どうやらまだ戻ら
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