日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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ん』になろうとする。徐晃さんが私と初めて出会った時と同じ優しい人なら、黒麒麟になる前の『彼』だったなら、きっとそうすると思う」
月はぎゅっと眉を寄せて雛里を見つめた。彼女が余りに儚く、哀しい笑顔を浮かべていたから。
雛里は彼に『彼』のことを教えてあげない、と言っている。古くから付き従ってきたモノも全て居なくなった今、本当の意味で秋斗の事を語れる者は雛里以外に居ない。
秋斗をずっと見てきたから気付いてしまった。臆病で普通の男だった秋斗が練兵をしていく内に将となったのは……愛紗や星、鈴々の在り方を真似ていたからだと。
ならば今回はどうなるか、予測に容易い。人から願われる姿があるのならば、世界を変えようと動いていた嘗ての自分が居たならば、今の徐公明は『黒麒麟』を演じようとする。
雛里の判断は彼女の思惑を超えて正解であった。記憶を失ったならば過去の自分を求める事もあり、秋斗の場合は与えられた目的の為に余計それに引き摺られる事となるのだ。
対外的には、初めの臆病な彼に戻ったのなら、偽物の黒麒麟は徐晃隊を扱うには足りず、軍としてのズレが大きな害を生むとも説いていた。
ただ……思い出さずに、矛盾を感じずにいて欲しい、そして同じ存在だとしても、演じられている偽物の秋斗を見たくない……さらには、慕っていた事を知って自分に縛られて欲しくない。それが雛里の本心だった。
自分も同じ気持ちであったから、月はそれが分かってしまった。
雛里は彼女の耳元に口を近づけて、ゆっくりと声を紡いだ。
「徐晃さんが幸せでいられるならそれでいいの。秋斗さんの事……好きだったって気付いた月ちゃんはどうしたい?」
驚くほど冷たい声だった。嘗て黒麒麟と共に敵をどのようにして撃退するか考えていた時の声音。凍えるような鳳凰の囁き。
雛里は『秋斗』の事を、同じ存在ならば全て忘れて幸せになって欲しいという言い分で諦めたのだ。
言い返そうとした月は雛里に指を一つ口元に当てられて何も言えなかった。
「私じゃ彼を救えない。きっと記憶が戻っても、私が隣に居たらまた壊れちゃう。記憶が戻らなくても、私の存在が徐晃さんを過去に縛り付け過ぎちゃう。だからね、月ちゃんが徐晃さんを幸せにしてあげて。きっと今のあの人は私に出会う前の徐晃さんだから」
自分勝手な物言いだった。しかし……雛里の泣きそうな瞳を見るとどうする事も出来なかった。
ほんの少しだけ、月には疚しい気持ちが湧いていたのだ。
雛里と秋斗が想いを伝えあった事は既に聞いていて、恋仲の関係になった事も分かっていて、平穏な世界で幸せを探そうと約束した事も知っている。
――――羨ましい。
夜に震えながら抑え付けていた中にはそんな気持ちもあった。初めて恋した相手と出会い方が違っていたなら、
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