暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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たは皆の願いを叶えるんでしょ!? ボク達の想いを繋ぐんでしょ!? 皆が願った平穏な世界をっ、作るんでしょ!? ボクと月にっ、それを見せて、くれるんでしょう!?」

 彼は無言でその声を受けていた。最初は訝しげに眉を顰めるだけだった。しかし、聡い彼が予測を立てないはずが無かった。

「俺は……もしかして記憶を無くしたのか?」

 ぽつりと呟かれた言葉を受け、彼が戻ってこない事に気付いて、次第に詠の声は泣き声に変わっていった。

「バカ、バカよあんたは……ボク達も……っ……」

 もうその場に居る事も出来ず、詠も雛里のように彼の部屋を後にした。
 部屋に着くなり月に語った。彼がどうなっているのか、涙を零しながら、雛里を抱きしめて、その泣き声が大きくなっても伝えた。
 月は彼の元に行かなかった。否、行けなかった。
 その時に空いた穴は思考を停止させ、その双眸から涙を零れさせ、自身の身体をその場に縛り付けた。
 呆然と宙を見やること幾分、彼女はその隙間を埋めるように、詠と雛里を抱きしめた。
 そこで気付いた。自分が『彼』を求めていたのだと。今、会いに行けないのは……想いを向けていたはずの『彼』が消えてしまった事を認めたくないからなのだと。
 詠と雛里が泣き疲れて眠った頃に、月は一人で震えていた。自分の気持ちに気付いて、溢れ始めた想いをどうしていいのか分からなくなっていた。友となった少女の恋を応援していたのに、同じ人を想うようになるとは思っても見なかった。
 寝ずに自問自答を繰り返した彼女に、朝早くに目を覚ました雛里は優しく告げた。

「月ちゃん、私はこれから戦場に向かうから徐晃さんの側に居られない。私が秋斗さんの代わりに想いを繋ぐ。私に出来るのはそれくらいだから……一人ぼっちの徐晃さんを支えてあげて?」

 雛里が言っている事は隠された意味があった。月は雛里が彼の元に居られない……否、居たくない理由が分かってしまった。

「雛里ちゃん、忘れたままでいい……って考えてない?」

 瞬間、雛里は悲痛な表情に変わった。自分の心を見透かされて、ふるふると震える身体を自身で抱きしめた。
 雛里は一番初めから彼の事を知っている。だから、思い出させるなら傍にいるべきなのだ。
 ゆっくりと大きく息を吐いて、雛里は月を見据えた。悲哀と、後悔と、ほんの少しの歓喜を乗せて。

「出来るなら……このまま思い出さないで欲しい」
「どうして?」
「……記憶が戻ったらもっと壊れちゃうから。人を救いたくて仕方なかったあの人は、自分が全てを忘れていた事を責めて、今度こそ自分を殺しきっちゃう。私は……もうあの人に苦しんで欲しくない。
 あともう一つ、一緒に居られない理由があるよ。きっと徐晃さんは『秋斗さん』の事を知りたがる。そして『秋斗さ
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