日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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そんな噂が立ったのは一人の少女の指示で行われた情報操作の賜物であった。
鳳雛、と世に広く伝わる少女が齎した波紋は大きく、河北の果て、幽州の地まで届き始めていた。
曰く、白馬の王は救われた義を果たす為に、昇龍を引き連れて仁徳の君と共に。
曰く、黒麒麟は民を多く救う為、そして白馬の王の無念を晴らす為に覇王と共に。
漸く共に戦えるはずだった三人がすぐに別々になった事を想い、白蓮が治めていた街では涙を流すモノも少なくなかった。
そして願う。どうか、この乱世で彼らが敵対すること無きよう。どうか、平穏な世になるならば、白馬の王に嘗ての平穏を。
老獪な知恵あるモノ達は行く先に気付いているから涙を流した。覇王と仁君は争う可能性が高く、白と黒が混ざるはもはや乱世の終結でしかありえない、と。
民の心がどのように動いていくのか予想して、嘗ての王たる白銀の髪の少女――月は心が沈んでいた。
今、『彼』はいないのだ。
白馬の王や昇龍の友も、覇王が欲した異質にして有能な将も、自身達を助けてくれた優しい男も、兵士が想いを預けた黒麒麟も……そして鳳凰が愛して救いたいと願った『彼』も、此処には居ない。
人々からの期待という名の鎖は、どれほどその男を……嘗ての自身と比べられて締め付けるのか。
隣で楽しそうに歩く彼をちらりと見ると心がジクジクと痛みを訴えた。
彼女は……『彼』が消えてからぽっかりと自身の心に穴が空き、漸くその根幹にあるモノを理解していた。
ズキリと大きな鋭い痛みが胸に走り、心に穴が空いた日を思い出した彼女は泣きそうになった。
†
絶望の日、雛里は彼が記憶を失った事を知ってしまい、月と詠の部屋に駆け込んで一晩中泣いていた。
彼女達は始め、何故泣いているのか理解できずにただ慰めようとしたのだが、言葉も零せないほど大泣きしている雛里を見て異常さを感じ取った詠が秋斗の様子を確認して……事を理解した。
詠は喚いた。涙を流しながら彼に掴みかかった。彼にはどうしてそうされるか分かるはずが無いというのに。
その時は詠も壊れそうであった。雛里の心、月の心、徐晃隊の心を想って、そして……自分の奥底にある想いを、『彼』を失った事で理解してしまったがゆえに。
雛里のような身を焦がし尽くすような想いでは無く、ほんの些細な、淡く暖かい恋心。芽生え始めた新芽であり、きっとこの先育って行くと自身でも予測が容易いモノだった。
だから詠は彼を責めたてるしかなかった。自分が壊れてしまわないように、二人の少女が言えない事を言ってやれるように、今も信じているモノと死んでいったモノ達の分も伝えてやれるように。
そうする事で、責任感の強い彼ならばすぐに戻ってくるのだとも思ったから。
「どうしてっ……あん
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