8-1話
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違いなかった。
「その点、茶は便利なものよ、感情ではどうにもならない制御を補ってくれるからね」
そうでしょ?…とジェニアリーさんははにかみながらマグカップをこちらに向けてクイッ、と傾けてきた。
「さて、非日常を認識した赤神りおん。 貴女は昨日の事が知りたいんでしょうね、あの獣について」
私は、そのピンポイントの話題に一瞬体が強ばるも、首肯して返した。
「はい……ジェニアリーさんは、“アレ”を知っているんですか?」
「何も知らないわ」
あっさりと否定して肩透かしを食らった。
だが、私が言葉を返す前にジェニアリーさんは言葉を続けた。
「意地悪で言っているわけじゃないのよ。 アタシは本当に、あんな獣なんか知らない、名前すらね。 けど…“もしかしたら”、の推測なら言えるわよ」
「それは……?」
「絶滅動物」
―――少し、逡巡して私はその言葉を呑み込んだ。 そしてその言葉をオウム返しした。
「絶滅…動物?」
「文字通りの意味よ。 アレとは違う別の生物を見て、それを絶滅動物だと断定した子がいたのよ。 それもアタシが見た事も聞いた事もない獣だった。 アレが絶滅動物だとしたら、昨日の獣もまた絶滅動物かもしれないわね」
てっきり、私が昨日見たモノ…アレが全てだと思った。
だがそれは違った。 あんな怪物の他にもいるだなんて…。
悪夢みたいな事実に目の前が暗くなるような錯覚を覚えた。
「あの獣だけじゃない、この土地全てが…現代には残っていない過去の存在が生息している…と、アタシは推測するわ」
「この土地全て…ですか? どうしてそんな事が…」
「辺り一帯を渡り歩いて調べたから。 どこにもいなかったのよ―――“普通の動物”が」
その意味、わかるでしょう?、とジェニアリーさんは私に問うた。
ジェニアリーさんは言外にこう込めた。
この土地は、どこに行っても絶滅動物と思わしき生物しか見当たらない……と。
「そ、んな………」
「ありえない…とでも言いたい? でもね、こう思っておきなさい。 一枚壁向こうは別世界のような存在、文化、人種、常識、それらの一つ超えたそこには当たり前のように未知が転がっているのよ。 自分が常識を常識と思っていたものは、ほんのわずかの知識でしかなく、国一つ向こうの文化どころか同じ国の地域一つで違っただけでそこにあるモノに驚かされる。 日常という壁一つ向こうには、こんな事もあるのよ」
「あ、ぅ……」
何も言い返せなかった。
達観、どころじゃない…こんな異常な状況の中で動揺するどころか、そういうモノもあるという考えを持っている。
私にはその世界観が見えてこない。
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