第六章
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第六章
第六章 喜撰法師の章
宇治の山の奥の庵。そこに年老いた一人の僧侶がいた。
名を喜撰という。法師である為法衣を身に着けそこに静かに暮らしていた。
そこで一人、友人達と共に静かに生きている。友人達は花鳥風月、それを友にして暮らしていた。
そしてもう一つ、歌を共に。今はここに久方ぶりに尋ねてきた人の友に貰った紙を前にしている。
薄い紫の紙だった。それを眺めながらあれこれと考えている。
だが遂には考えが纏まった。何に使うべきか見極めたのだ。
「歌じゃな」
彼は歌が好きだった。歌ではここに入る前から長きに渡って歌い、そして評判があった。評判はどうでもいいとして歌は好きだった。彼にとって歌は花鳥風月と結び付いた深い友であったのだ。
「ここのことを歌うとするか」
題も決めた。何気なくいつも暮らしているこの庵を歌おうと思った。もう迷うことはなかった。
筆を取り書きはじめる。その薄い紫の紙にさらさらと書いていく。
わがいほは都のたつみしかぞすむ世をうち山と人はいふなり
書き終えた歌を見る。人の声をあえて笑う洒脱な歌だった。
「これでよし」
歌を眺めて満足そうに笑う。会心の出来といってよかった。
その歌を机の上に置くと庵を出た。そしてそのまま友人達のところへと向かう。
「万事は静かに、そして穏やかに」
歩きながら呟く。
穏やかであるが胸を張っていた。顔は明るく。憂いはなかった。
その憂いのない顔と心で外に出る。そのまま彼はまた静かな歌の世界に入るのであった。
六歌仙容姿彩 完
2006・8・10
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