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六歌仙容姿彩
第四章
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花の色はかすみにこめて見せずとも香をだにすれ春の山かぜ

 歌いながら書く。書き終えまずは歌を見やる。
「ふむ」
「如何されましたか」
「自分で言うのも何だがな」
 遍昭は顔を少し楽しげにさせていた。
「よい歌じゃ」
「左様ですか」
「歌っているうちに気付いたわ」
 そのうえで述べた。
「この香にな」
「そういえば」
 素性もそれを言われてやっと気付いた。
「この山の香りは」
「よいものじゃな」
「ええ、山全体に梅の香りが立ち込めて」
「心が落ち着く。何よりも」
「ですね」
「案外俗世でなくてもよいかも知れぬ」
 遍昭はその香りを楽しみながら言った。
「恋やそうしたものはなくとも花があり」
「香りがあり」
「それだけで充分ではないかな。そうは思わぬか」
「では僧正」
 父ではあってももう俗世ではない。だからあえてこう呼んだ。
「寺に帰りましたら般若湯は」
「むっ」
 遍昭はそれを聞いて顔を顰めさせた。顔が急に変わった。
「なしということで」
「待て、それは」
 慌ててそれを止めようとする。
「困る。あれがないと」
「いえいえ、俗世を忘れるにはやはり」
「そこを何とか」
 最後はどうにも崩れてしまった。だが歌は残った。梅を愛する歌が。

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